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九十歳 何がめでたい 佐藤愛子さんの思わず優しくなれるエッセイ『ほっこり編』

九十歳 何がめでたい 佐藤愛子

著者 佐藤愛子
出版社 小学館
分類 エッセイ
出版日 2016/8/1


前回に続いて、佐藤愛子さんのベストセラーエッセイ『九十歳何がめでたい』を紹介します。

佐藤愛子さんの親しみのある毒舌『バッサリ編』で、世の中の出来事を気持ち良くバッサリ切ってもらった後は『ほっこり編』で少し優しくなりませんか?

それでは、『九十歳 何がめでたい』から、佐藤愛子さんの出会ったほっこりする出来事のお話を3つまで紹介しますね。

佐藤愛子さんのベストセラーエッセイ『九十歳何がめでたい』


小説家として数えきれない作品を生み出し、1人の女性として95年を生きてきた佐藤愛子さん。

1/3も生きていない花水(hanami)が語るには、恐れ多いことでもあります、笑。

複雑な家庭環境、戦争、旦那さんの看取り、借金の返済。

家庭を築くこと、働くこと、家族を育てること、人と出会うこと。

生きていく中のほとんどを経験された、九十歳の佐藤愛子さんだからこそ、描かれたエピソードにも深みが持てる。

1冊に90年が詰まっている、そう思えます。



ほっこりする3つのエピソード、佐藤愛子さんと花粉症と泥棒と愛犬


佐藤愛子さんのエッセイというと、適度に毒舌が効いたスッキリするお話が印象的です。

今回は、毒舌の中に込められた「ほっこり」するエピソードを選んでみますね。


花粉症のほっこり話

つまり私は完全婆アになったということなのである。私は半分死んだのだ。棺桶に片脚入っている。そういうことなのだ!
ああ、いまとなってはうららかな春の朝の空気を震わせて、ハ・ハ・ハークション!思うさまにストレスをぶっ放していたあの頃がしみじみ懐かしい。p163 懐旧の春

実は、佐藤愛子さんも花粉症に悩んでいたそうです。

あまり似合いませんね、笑。

それが九十歳を過ぎてから、ピタリと花粉症が治まった時のお話。

私はまだまだ長くは生きていませんが、佐藤さんにとって花粉症は腐れ縁の友だちでもあったのですね。

例えば、私は少し前までお気に入りの中古車に乗っていました。

お気に入りではありましたが、車検のたびに修理代がかさみ家計のために手放すことにしました。

その時の気持ちに、少し重なりました。

こんなことって経験ありません?


泥棒の家族に情のほっこり話

「あの人に会いたい」というテレビ番組があれば、そうしてあの嘘つきドロボーの熊娘を探し出してくれるなら、テレビ嫌いの私でも喜んで出演するだろう。そうして彼女がどんなおとなになったかを見たいものだ。p147 思い出のドロボー(承前)

数十年前、佐藤愛子さんが言葉巧みに泥棒にあった話のようです。

泥棒は若い女性で、佐藤さんのような裕福な家庭に悲劇の女性を装って転がり込み金品を盗むことを繰り返していたそうです。

泥棒はその後逮捕され、親御さん方が僅かな金銭を持って謝罪に来た時のことです。

佐藤愛子さんは汚れた不揃いなお札を見て、娘のために苦労して集めたのだろうと思い受け取らなかったそうです。

読み始めてからは、世の中の泥棒や詐欺師に厳しい言葉をかける内容なのかと思いましたが違いました。

泥棒の親であれ親は親、娘を思う気持ちを汲んだ佐藤愛子さん。

やっぱり憎まれ口の書き口で本を書いていても、本心は暖かくて懐の深〜い方なんだなと感じますね。

そして、許すことが少なくなった世の中なのかなぁと思いました。

昔は近所の悪ガキが落書きをしたら、家のオヤジさんに怒られて必死に消して許してもらえたもの。

今では即慰謝料の請求に発展しますものね。


捨て犬だった愛犬とのほっこり話

ある日、娘が親しくしている霊能のある女性からこんなことを聞いて来た。
「ハナちゃんは佐藤さんに命を助けてもらったっていって、本当に感謝していますよ。そしてね、あのご飯をもう一度食べたいっていっています」
そのご飯がその人の目に見えてきたらしい。
「これは何ですか?なんだかグチャグチャしたご飯ですね」
不思議そうにその人はいったとか。途端に私の目からどっと涙が溢れたのであった。p117 グチャグチャ飯

佐藤愛子さんには、出会って15年も飼っていた犬がいたそうです。

本の中では「可愛がっていない、ついでに飼っているだけ」と言っていました。

それでも、元々捨てられていた犬がすり寄ってくる様子があったことから慕われていたんだと、それだけ可愛がっていたんだと思いますよ。

最近ではドッグフードでの栄養管理が当然のようで、当時から始まってはいたそうです。

ですが、佐藤愛子さんは「犬は残り物とご飯」という餌やりのスタイルを崩さず汁かけご飯をあげ続けており、犬が亡くなった時の腎不全の死因を後悔していたそうです。

霊能者が言っていたことなのか、娘さんが言ったことなのかは定かではありませんが、涙を零されたシーンがドラマのように頭に浮かび思わずウルっとしますよ。

憎まれ口で犬のことを書いていても、15年も一緒に生きて亡くした後も後悔して、そして犬からの感謝の言葉を聞いて涙を零される。

本当に気持ちが繋がった飼い主とペットだったんだなぁと思います。



『九十歳何がめでたい』で得られた3つの大切なこと

毒舌スタイルが気持ちいい佐藤愛子さんの作品の中にも、ほっこり優しくなれる話もありましたよ。

長い人生を生きられている佐藤愛子さんの、人としての気持ちの深さに触れることができる作品です。

読んでみて思います。

「手はかかっても、迷惑はしても、共に過ごす時が大切なのかな」

「許されることって少なくなった。それは自分も同じか、少しは人にも優しくなりたいな」

「愛情は表さなくてもつながりあっているものなのかもしれない」



世の中に疲れている人にはおすすめのエッセイ


「世の中変わったなぁ」

佐藤愛子さんの1/3も生きていない花水(hanami)でも、そう思うこともあります。

寿命が伸びて、少年と若者に無理をさせていた「根性論」は減っていく様子を見せて、スマホのような20年前には夢の道具もできて。

良いことも増えました。

ですが、減っていた良かったことも、そこにはあったのかなぁ?

そんな世の中で、ちょっとだけ疲れている人。

ふと、今の世の中に疑問を持って立ち止まってみるキッカケにもなるはずですよ。

ぜひ読んでみて下さい!


九十歳何がめでたい「バッサリ編」はこちら↓
www.yu-hanami.com




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