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伊坂幸太郎人気作品 陽気なギャングシリーズの3人の小悪党に迫る

伊坂幸太郎「陽気なギャング」シリーズの個性的な小悪党を振り返る

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「登場人物を深読みする」がテーマのお話、第1回は伊坂幸太郎さんの人気作品「陽気なギャング」シリーズを選んでみました。

登場人物といっても、今回は主人公やライバル役ではなく、深読みしてみないと忘れてしまいそうな小悪党キャラに注目してみます。


※ネタバレ注意

陽気なギャングシリーズ

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どんな嘘も見破る冷静なリーダー 成瀬

演説家でムードメーカー 響野

スリの達人で運動神経抜群の 久遠

コンマ1秒の体内時計のドライバー 雪子

会話のまとめ役の響野の妻 祥子


世の中で仕事をしながら、銀行強盗をする陽気なギャングたちが、世間の表と裏の出来事を解決するお話が「陽気なギャングシリーズ」。



陽気なギャングと本物の大悪党をつなぐ小悪党

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「陽気なギャングの一味」も、銀行強盗を繰り返している悪党に違いはありません。

ムードメーカーの響野はこう言います。

「みなさんのお金を奪うつもりもありません。銀行のお金を、拝借していくだけです。国に守られ、預金の金利はちっとも上げず、ボロ儲けの銀行から、ですよ」

大金持ちから直接お金を奪ったり、詐欺で人を騙しているわけではない陽気なギャングは、物語では悪党の立場で描かれてはいません。

違法カジノで莫大な借金を負わせたり、人殺しもいとわないようなもっと酷い大悪党が登場します。

陽気なギャングと大悪党との間で揺れ動く登場人物たちが、今回注目した3人の小悪党です。


家族を売る父親 地道毅雄

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シリーズ1作目『陽気なギャングが地球を回す』に登場した小悪党は、陽気なギャングの一味 雪子の元夫で慎一の父親 地道毅雄。


父親になるには弱すぎる心

陽気なギャングの一味は、銀行強盗の逃走中に交通事故に巻き込まれることに………。

ですが、事故の相手は拳銃を構えて陽気なギャングの車を奪ってしまう。

拳銃を持った事故の相手は、何と別の現金輸送車強盗だった。

首謀者は、雪子の元夫で慎一の父親の地道毅雄。

本作品に登場する殺人もいとわない大悪党 神崎に弱みを握られた地道は、何と息子を人質に元妻の雪子を脅迫して、事故を装った“銀行強盗”強盗を実行したのだった。


最後のチャンスを与えられるが…

奪われた銀行強盗の「売り上げ」を取り戻すため、陽気なギャングの成瀬たちは新たな銀行強盗を計画していた。

“銀行強盗”強盗の首謀者 地道を突き止め、売り上げを奪ったことを水に流す代わりに、仲間になり協力することを持ちかける成瀬。

夫婦だった雪子は、地道の意思の弱い性格から裏切りを心配し反対する。

雪子の心配は当たってしまい、陽気なギャングが向かった銀行は警察に包囲される。

逃走担当の雪子の車にも、拳銃を持った大悪党 神崎が乗り込んでいた…。

銀行を包囲していた警察官数人が雪子の車に迫る………。

警察官は、素早く雪子を確保すると神崎を車の中に押入れて中からは開かない鍵をかけて閉じ込めた。

驚く雪子が見たのは、帽子を脱いだ仲間の響野と久遠。

陽気なギャングのリーダー成瀬は、地道に嘘の情報を流し、裏切った地道はそれを神崎に知らせるミスを犯していたのだった。

大悪党の神崎は逮捕され、共犯の容疑を疑われた地道は逃走する。

警察にも強盗と殺人の容疑で手配され、神崎にも裏切りを疑われ逃げ回る日々を過ごすことになった。


お人好し過ぎた小西勝一

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シリーズ2作目『陽気なギャングの日常と襲撃』に登場した小悪党は小西勝一。

小悪党というより、悪党になりきれない真面目で不器用なとても人間味のある人物。


弟が継いだ実家のために誘拐事件を起こす

小西企画は社長の小西と部下の太田1人の零細企業。

お人好しで面倒見のいい小西は、会社が傾いてもついていきたいと思えるほどお人好しで気のいい兄貴分。

彼の実家は地方都市で小さな小西薬局をしていたが、大手薬局 筒井ドラックの強引な出店で危機に立たされていた。

小西薬局の店主で小西勝一の弟は、筒井ドラックと関係のある違法組織が仕掛けた交通事故で大きな賠償金を請求されていた。

実家と弟を何とかしたいと思っていた小西は、飲み屋で知り合った男に儲け話を提案される。

それは、大手薬局 筒井ドラックの令嬢 良子を誘拐して身代金を取るというもの。


元々悪党向きではなかった小西

「許しがたい人間がいるって時に、暢気に計画なんて立てている場合か?」

小西の台詞が全てを語っているように、計画性もなく、危機管理もずさんな彼は元々悪党向きではなかった。

誘拐された筒井良子は、成瀬の働く区役所の部下の婚約者だった。

小西の周辺は、陽気なギャングの一味に突き止められ、久遠は人質として紛れ込む。

もちろん、誘拐事件は失敗し、筒井ドラックと関係の深い違法カジノの元締め 鬼怒川の手下に人質の良子を連れ去られてしまう。

その後、成瀬たちは鬼怒川に嘘の情報を流して海外に向かわせ、違法カジノを襲い良子を見事に救出していた。

小西のその後は描かれていないが、人質になって事情を知っていた久遠の計らいで、小西薬局には陽気なギャングの一味から大金が送られることになる。



金儲け主義のハイエナ記者 火尻

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シリーズ3作品目『陽気なギャングは三つ数えろ』に登場する小悪党は、雑誌記者の火尻。


人の命も金儲けの道具にする悪徳記者と迷台詞

ゴシップ雑誌記者の火尻は、金儲けのためなら誰が悲しんでも、苦しんでも構わない倫理観の持ち主。

ギャンブルで金に困っていた火尻は、犯罪被害者の女性のプライベートを根掘り葉掘り調べ、真面目に働いている「裏で副業の風俗で荒稼ぎする女」というレッテルを世の中に広めてしまう。

そして、仕事を失い、暮らしを壊された女性は命を絶った。

火尻は言う。

「他人の不幸は蜜の味というのは嘘ではない。妬みについて調べた研究では、実際わネズミにだって自分より優れたライバルに不幸が訪れると脳が喜びを感じるらしい。これはもう仕方がない。脳の問題なんだ」

とても気分の悪くなるひと言。


毒を持って毒は制された

ハイエナ記者の最後は、自分の武器だった情報を逆手に取られ、裏社会のカジノ経営者 大桑らに連れ去られることに…。

成瀬たちの作戦で、大桑が大切にしていたペットの亀を食べわたことにされた火尻。

会話を巧妙に編集した証拠を突きつけられ、亀のように料理されることを告げられ泣きわめく火尻の姿に、読者の皆さんの気持ちもスッキリしたことでしょう。


陽気なギャングと本物の大悪党の架け橋?

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今回取り上げた小悪党の3人は、大悪党組織に脅されていたり、被害にあっている立場で描かれていました。

陽気なギャングの一味は、「銀行からお金を奪う」こと以外人を傷つけないことをポリシーにしています。

本物の大悪党もまた、「何をしてでも自分たちの利益にする」ことにブレはありません。

反対の立場にある2つの間で揺れ動く小悪党。

自分のために悪事を働いていても、どこか良心も残っていたり、命の危険を冒すような悪事はためらったり、読み返してみるととても人間的で、人間のダメな部分が強く描かれた登場人物に思えてなりません。


小説にまつわるコラム

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