田中芳樹さんの紹介
「異世界を創り出す作家」
小説家の田中芳樹さんをひと言で紹介させていただくなら、このように表現させていただきます。
幻想的な舞台と神秘的な世界観には、土台になる歴史と文化が含まれている。
そう思えてならない日本を代表するSF小説とファンタジー小説の作家さんを紹介させていただきますね。
田中芳樹さんの紹介
1978年に『緑の草原に…』でデビューされた田中芳樹さんは、SF小説やファンタジー小説を中心に40年以上執筆を続けられている作家さんです。
2010年代から、出版後に漫画化やアニメ化されるライトノベル作品の人気が続いていますが、田中芳樹さんはその基礎を築いた小説家ともいわれています。
田中芳樹さんの来歴
・1978年 『緑の草原に…』で第3回幻影城新人賞小説部門受賞
・1981年 初の長編小説『白夜の弔鐘』を発表
・1982年 スペース・オペラと歴史小説とを融合した『銀河英雄伝説』シリーズを出版し、人気作家としてブレイク
・1986年 『アルスラーン戦記』を出版
・1988年 『銀河英雄伝説』が星雲賞日本長編部門を受賞
・1989年 『銀河英雄伝説』本編が完結
・2006年 『ラインの虜囚』が第22回うつのみやこども賞
・2017年 『アルスラーン戦記』が完結
熊本県天草市出身の田中芳樹さんは、上京後に学習院大学文学部を卒業。
卒業後に執筆された『緑の草原に…』が第3回幻影城新人賞小説部門を受賞し小説家としての歩みを始められます。
その後は、『銀河英雄伝説』をはじめとしたスペース・オペラ、『アルスラーン戦記』が人気のヒロイック・ファンタジーなどSF小説とファンタジー小説のジャンルを開拓され、現代のライトノベルやメディアミックスにつながる作風の基礎を築いた作家さんでもあります。
また、児童文学や歴史小説、翻訳小説も手掛けられ、デビューから現在まで40年以上執筆活動を続けています。
日本人好みの異世界を開拓する小説家
田中芳樹、という作り手に織られた物語のジャンルは、非常に多岐にわたっています。ヒロイック・ファンタジー。スペース・オペラ。伝奇活劇。怪異を追う女性警察官。児童文学。中国歴史小説。中国武将評伝。翻訳小説……有名洋画のノベライズまであります。
中略)
その舞台の多くが、田中氏自身が開拓したジャンルでもあります。
結城充考
『アルスラーン戦記5 征馬孤影』文庫解説
出会いとすれ違いで変わる未来とは?『 アルスラーン戦記5 征馬狐影』 - 本当に本が読みたくなる読書のブログ
日本国内では、松本零士さんの宇宙を舞台にした作品がブームを巻き起こした1970年代。
SF小説の分野では、1980〜1990年代にスペース・オペラブームが起こったとされ、宇宙を舞台に国家同士の勢力を争う『銀河英雄伝説』は、スペース・オペラに複数のストーリーが同時並行的に展開する群像劇、舞台になる国家の成り立ちを描く歴史小説の作風が取り入れられた新しいジャンルという見解もあります。
中世を舞台に英雄が活躍するヒロイック・ファンタジーの分野にも、敵側の物語も細かく描く群像劇が取り入れられ、『アルスラーン戦記』が生み出されています。
日本人好みの「登場人物の細かな背景」が描かれた作品は、田中芳樹さんが開拓されたジャンルと、SFミステリー作家の結城充考さんも解説されています。
世界各地がモデルの異世界で活躍する多彩な登場人物
実際の地域をモデルにした田中芳樹さんの作品では、地球上はもちろん宇宙まで登場人物の活躍する舞台として描かれています。
世界各地が舞台の大河小説
田中芳樹さんの作品は、地球上ではアジアから中東、ヨーロッパをモデルにした世界各地が舞台です。
ファンタジー小説の世界でありながら、そこには地図があって気候もあって、人が行き来して生まれる経済も存在します。
そうして生まれた異世界の歴史の一部が、物語のストーリーとして描かれる。
『アルスラーン戦記』や『マヴァール年代記』がファンタジー大河小説と呼ばれるのは、「そこに世界があるから」なのかもしれません。
多彩な登場人物が織りなす世界観が見どころ
エキセントリックな登場人物が目白押しならば、物語が面白くなるかといえばそれは違う。大切なのは相互作用だ。
中略)
いささか乱暴な言い方かもしれないが、相互作用がもたらす登場人物が多ければ多いほど、物語は厚みを増して面白くなってゆく。相互作用によって増えた選択肢の中から物語の造り手は最良の道を選ぶことができるからだ。
森福都
『アルスラーン戦記3 落日悲歌』文庫解説
信頼を問われる王子『アルスラーン戦記3 落日悲歌』 - 本当に本が読みたくなる読書のブログ
現実世界が舞台の推理小説を描く森福都さんは、田中芳樹さんの作品の見どころに「登場人物同士の相互作用」という点をあげられています。
1人の主人公を引き立たせるためではなく、それぞれの登場人物が自分の人生を生きている。
田中芳樹さんの代表作『アルスラーン戦記』
や『銀河英雄伝説』は、読みかえす度に別の登場人物の目線で世界観を楽しむことができる作品ですよね。
田中芳樹さんの代表作
スペース・オペラとヒロイック・ファンタジーの他にも、ミステリー小説や歴史小説、児童文学など多くの作品を出版されている田中芳樹さん。
今回は、代表作ともいえるSF小説とファンタジー小説の2つのシリーズを取り上げさせていただきますね。
銀河英雄伝説シリーズ
1982年11月から1989年7月にかけて、全14巻が出版されたSF長編小説『銀河英雄伝説』。
累計部数は2022年1月時点で1500万部を超え、1986年に漫画化、1988年にアニメ化され世代を越えた根強いファンに愛される作品です。
皇帝と貴族が支配する銀河帝国で政略に優れた指導者ラインハルトと、帝国から脱出した共和主義の人々が建国した自由惑星同盟の若き軍事的天才ヤンの活躍を、宇宙歴史家の目線で描く当時は珍しいスペース・オペラのジャンルを開拓した小説です。
異世界を創り出す田中芳樹さんのまとめ
『守り人シリーズ』が人気の日本を代表するファンタジー作家の上橋菜穂子さんは、田中芳樹さんの描くファンタジー小説の世界をこのように解説されています。
読むものが中に入って生きられるような異世界は、自分が生きている世界について考えることなしには、決して生まれてきません。
人が生きている世界の、気候風土、人々が生み出していくもの、経済の流れ、宗教の在り方、そして、人の群れをコントロールしていく政治と軍事の在り方……。
過去の歴史から見えてくるもの、今の世界から見えるもの。―そういう諸所が気になって仕方がない人こそ、多分、異世界を構築するような大河ファンタジーを描く作家に向いているのだと思います。
そして、人の世の絡繰りに深い関心をもち、政治の裏に人の愚かしさや業を見、歴史を学ぶことを愛し、学ぶという行為そのものを尊んでいる田中芳樹はまさに、そういう資質を備えた作家なのでしょう。
上橋菜穂子
『アルスラーン戦記1 王都炎上』文庫解説
国内ファンタジー小説の名作『アルスラーン戦記1 王都炎上』の紹介 - 本当に本が読みたくなる読書のブログ
小説や漫画の中に「異世界を創り出す」ためには、現実の地理と自然、経済と政治のあり方、宗教や思想などの人の倫理観、そして異世界の中にある歴史……。
こうした背景があるからこそ、異世界の中で登場人物が生き生きと活躍し、私たち読者を楽しませてくれるのでしょう。
田中芳樹さんの創り出す異世界のファンタジー、読んでみたくなりませんか?
関連サイトリンク
銀河英雄伝説公式ポータルサイト
銀河英雄伝説│公式ポータルサイト
アルスラーン戦記最終巻記念ページ 光文社
田中芳樹 アルスラーン戦記 最終巻発売記念ページ | カッパ・ノベルス | 光文社