改訂版 陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式
著者 木元寛明
出版社 株式会社潮書房光人新社
分類 専門書、政治と経済の本
出版日 2023/10/23
読みやすさ ☆☆★読みやすい
今回は久しぶりに小説以外の本の紹介です。
安全保障と軍事関係の専門書なのですが、ビジネス書との共通点もあり、読み比べてみるのも勉強になる1冊でしたよ。
素適な読書ブログが集まるグループです↑
著者は元自衛隊陸将補の木元寛明さん
本の内容に触れる前に、著者の方の経歴と執筆歴を紹介させていただきます。
「改訂版 陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式」の構成と読みやすさ
「改訂版 陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式」は、実用書やビジネス書を読み慣れた方にとっては読みやすいと思える本です。
本の構成
・改訂版のはしがき p3〜p4
・はしがき(初版) p5〜p9
・統合作戦の原則 p17〜p37
・作戦術を構成する要素 p35〜p51
・『野戦令』とは何か p53〜p56
・日本古戦史に見る「戦いの原則」 p57〜p82
・ナポレオン戦争に見る「戦いの原則」 p83〜p111
・西南の役に見る「戦いの原則」 p113〜p134
・八甲田山雪中行軍に見る「戦いの原則」 p135〜p155
・ノモンハン事件に見る反「戦いの原則」 p157〜p187
・駆逐艦「雪風」に見る「戦いの原則」 p189〜p207
・朝鮮戦争に見る「戦いの原則」 p209〜p244
・中東戦争に見る「戦いの原則」 p245〜p270
・フォークランド紛争に見る「戦いの原則」 p271〜p292
・あとがき p295〜p297
本の構成は、1つの章に20〜30ページで12章で構成されています。
「統合作戦の原則」「作戦術を構成する要素」に改訂された戦いの原則の解説が書かれていて、歴史的な軍事作戦を例に具体的な戦いの原則の項目を解説されています。
読みやすさ ☆☆★読みやすい
専門書でもある「改訂版 陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式」は、タイトルからは難しそうな本に思えてしまいます。
軍事用語は使われていますが、具体的な解説が実用書のような分かりやすい文章で書かれていて、読書の習慣がある方にとっては読みやすい本です。
執筆活動の資料として手に取った1冊
私が「改訂版 陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式」を手に取った理由は、他の多くの読者の方と違うかと思います。
こうして読書ブログを更新する傍らで、小説の執筆も続けている花水由宇(hanami yu)は作品の参考資料として確かな情報が書かれた本を探していました。
最近は無料で誰でも読めるネット小説でも、ストーリー展開の正確さが求められています。
例えば登場人物がタイムスリップした先の戦場で、勇敢な将軍が「わしに続けー!」と断崖絶壁を駆け下り味方に勝利をもたらした。というだけでは、かなり無理があるようです。
描こうとしている展開は、詳しい方が見ても不自然ではないのだろうか?ということが気になって、軍事の専門家 木元寛明さんの本を選んでみました。
戦いの原則と軍事作戦とは?
「改訂版 陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式」は、2011年に初版が出版された後、アメリカ軍のマニュアルが改訂されたため新しく重版されることになりました。
本の中で取り上げられている「戦いの原則」を木元寛明さんの解説と図解でまとめてみます。
戦いの原則
戦いの原則は有史以来の膨大な戦例から帰納的に導き出されたものである。本書ではあえて逆の思考過程をとり、戦いの原則を古今東西の戦史(日本古戦史、ナポレオン戦史、西南の役、ノモンハン事件、駆逐艦「雪風」の戦い、朝鮮戦争、中東戦争)、研究演習(八甲田山雪中行軍)、危機管理(フォークランド紛争)などの観点から分析した。
・はしがき(初版) p7
私たち人間は、記録に残る限り遥か昔から世界のどこかで戦争を続けています。
平和という目線では、負の歴史が続いているといえるでしょう。
戦争に含まれる侵略や虐殺という倫理的な問題をひとまず除けて、ひとつの分野として扱うとしたら。
私たちは、歴史の中で膨大なデータを得たことになります。
経済分野では過去のデータから商品開発から消費者の購入までのデータが分析され、「こういった商品を開発」して、「どんな客層に向けた価格設定」なら「どのくらい売れる」と準備をします。
戦いの原則では、戦いの準備も過去のデータから分析して予測を立てていると解説されています。
軍事作戦とは?

十八世紀末から十九世紀初頭にかけて、ナポレオンが戦闘の上位概念となる作戦(オペレーション)を発見して軍事思想を一変させた。
中略)
作戦術(オペレーショナル・アート)は、欧州では十九世紀の早い時期から軍事理論の一部となっていた。にもかかわらず、米陸軍が戦術の上位概念となる作戦術を正式に採用したのは、二十世紀後半、中部欧州でソ連軍と対峙していた冷戦最盛期だった。
・統合作戦の原則 p35
アメリカの軍事マニュアルを元にした「統合作戦の原則」は、軍事作戦を3つの段階にまとめ「戦争のレベル」としています。
国家・政府が担当する①戦略レベル、自衛隊の最も上の部署が担当する②作戦レベル〜統合部隊指揮官(幕僚・参謀)、○○艦隊や○○連隊といった各戦術部隊(連隊長など)が担当する③戦術レベルの3つが「戦争のレベル」に当たります。

今日の米陸軍は、十項目の「作戦術を構成する要素」を定め、これら一式の知的ツールを活用して、作戦環境の理解、作戦の構想、および作戦の終わり方、すなわち作戦の大枠を具体的に決定している。
・統合作戦の原則 p37
実際に戦いが間近に迫った時や、作戦の中で起きた変化によって「作戦術を構成する要素」を設定します。
すべて書くととても多くなりますので、注目したいところを取り上げてみます。
②作戦の重心(Center of Gravity)は、「軍隊の戦力、行動の自由、行動を起こす動力源」とされ、重心を失うことが敗北につながるとされています。
反対の見方をすると、相手の重心を見つけ対応することが味方の勝利につながるということなんですね。

軍事作戦は陸・海・空・海兵隊の統合作戦が常態となり、軍隊の行動は正規戦から非正規戦(革命、反乱、武装蜂起、騒乱、大規模暴動、犯罪、テロリズムなど)への対応や人道支援などに拡大され、九原則(旧 戦いの原則)では捉えきれない環境なった。追加された三原則(抑制、忍耐、合法性)は未成熟の段階と言えるが、今後どのように定着するか注目したい。
・統合作戦の原則 p17〜p18
そして戦いが始まった時の考え方と行動の指標が、「統合作戦の原則(戦いの原則)」と呼ばれています。
2017年にアメリカ軍のマニュアルが改訂されたため、木元寛明さんの本も改訂出版されています。
こちらも、注目したいところを取り上げてみますね。
8.簡明の原則(Simplicity)は、命令の伝え間違いや現場の勘違いから歴史的な敗北が起こった出来事から生まれた考え方で、身近な言葉ではシンプル・イズ・ベストと同じ意味とされています。
戦いの現場だけではなく、私たちの日常でも大切なことですよね。
ビジネスと軍事作戦の共通点
民間企業で働かれた経験もある木元寛明さんは、軍事作戦とビジネスの考え方に共通点があることを発見されました。
ビジネス書を読むただの読書家の私も、いくつかの共通点に気がつくことができましたよ。
マネジメントとの共通点
陸上自衛隊を退官後民間企業で八年間、社員の研修を担当するポストに配置され、新任幹部社員に対してマネジメントを講義する機会を与えられた。教えることは学ぶことであり、あらためて「管理」「経営」「経営管理」「マネジメント」などの関係図書を大急ぎで読み漁って再学習した。
これらの参考書や教科書を読みながら気付いたことは、そこに書かれている中身は、自分が自衛官として学んだ戦略、戦術、戦史、指揮、統率、管理などと同じものであった。
・はしがき(初版) p6〜p7
ビジネス書で有名なP・F・ドラッカーの書籍を読まれた木元寛明さんは、ビジネスのマネジメントと自衛隊で学ばれていることに共通点を見つけたと書かれています。
軍事作戦もマネジメントの専門家でもない私が見比べても、「統合作戦の原則(戦いの原則)」はビジネス書に書かれていることとの共通点がいくつも見つかります。
目的と目標の違い
目的は、期待すべき所望の効果であり、目標は、目的を達成するための具体的な手段、方法などである。目的(何のために)と目標(何をするか)の関係は、上下の関係でもあり、全体と部分の関係でもある。戦いの結果には、勝ち・負け・引き分けがあるが、負け戦には例外なく「目的・目標のあいまいさ」が感得される。
・統合作戦の原則 p19〜p20
ビジネスと軍事作戦の共通点で分かりやすいのは、「統合作戦の原則(戦いの原則)」の1.目的の原則(the Objective)ではないでしょうか?
「目標が目的になっている」と悪い例えが紹介されるように、どんな仕事でも目的・目標のあいまいさがあると行き詰まって戻ることもできなくなりますよね。




