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迷い犬がつなぐ、ほっこりとする小さな奇跡『迷犬マジック』山本甲士

『迷犬マジック』
迷犬マジック (双葉文庫)


著者 山本甲士
出版社 株式会社双葉社
分類 小説
出版日 2021/9/12
読みやすさ ☆☆☆とても読みやすい

今回は、「ひかりの魔女シリーズ」が人気の山本甲士さんの作品『迷犬マジック』を紹介させていただきます。
迷犬(めいけん)マジックと出会う登場人物たちと、どこかの重なるところが思い当たる物語です。
普段は何気なさすぎて気が付かない、ほっこりとした繋がりを感じてみてはいかがでしょうか?

キッカケがつかめない4人の登場人物


物語の登場人物は、キッカケがつかめず暮らしの中の交差点で立ち止まっている4人。

彼ら彼女らの元に、突然現れた迷犬マジック。

リードを引いているようで、引かれているような、4人の変化に注目です。

七山高生(ななやまたかお)

妻を亡くしてからひとり暮らしを続ける七山高生は、身の回りの家事に慣れてきた元銀行員。

隣町に暮らす長男夫婦からは、70代になった高生の認知症を心配されていた。

寡黙で口数が少なく、ご近所付き合いも挨拶程度に済ませ、毎日の健康管理に勤しみ、近所の川で釣りをしてはブログを更新するルーティンの日々を送る。

ある日、最愛の孫娘せいらの誕生日を忘れてしまったことで長男夫婦の心配する認知症疑惑を上乗せしてしまう。

痛恨のミスをおかしてしまった高生の前に現れたのは、同年代の迷犬マジックだった。


屋形将騎(やかたまさき)

ギターを三味線に持ち替え1960〜1970年代の洋楽を弾き語る路上ミュージシャン屋形将騎は、メジャーデビューの夢を諦めてはいなかった。

ビル清掃のアルバイトを続け、空き家の多い地区の一戸建てで三味線に打ち込む屋形にも、30代という年齢が重くのしかかる。

通りがかりの高齢男性から高額な投げ銭を受け取ってから数日後、突然隣に座っていたのは黒柴の犬。

お客としてなのか、音楽仲間として現れたのか定かではない迷犬マジックは、根は真面目でトラブルを避け続けてきた将騎をリードで引くように公衆の間に引きずってゆく。


岩屋充(いわやみつる)

母を亡くしてからずさんな食生活を続け、健康にも影響が出るほど肥満体型になってしまった岩屋充。

先代から継いだカットハウスいわやで理容師を続けながら、変化のない日常を悲観的に思っていた。

30代後半で家事ができずズボラな充を、長年見てきた商店街の住民も心配していた。

婚活パーティーで悪酔いし、同年代の男性に介抱された翌日、思わぬ珍客が訪れる。
何事も長続きせず、周りに合わせるシャイな性格の彼は、現れた迷犬マジックと暮らすことに……。


鷹取苺(たかとりいちご)

父親との折り合いがつかず、廃業した祖母の文具店で暮らす鷹取苺は20代後半のいわゆるアラサー。

出版関係の仕事を夢見ていた鷹取は、新卒で就職した大手ホテルの営業をパワハラで辞めた後は人に会いたくないと静かな暮らしを続けていた。

商店街の一角でひっそりと暮らしていた日常は、雨宿りのつもりで現れたのか1匹の犬によって、大きな変化を迎えていた。




迷犬マジック


どこから来たのか、どこへ行くのかわからない1匹の老犬。

10歳くらいの初老で黒柴と洋犬のミックスの彼についてわかっていることは、首輪にマジックと書かれた名前だけ。

落ち着いた雰囲気が似合い、食事の好みも特になく、しつけがされていて知的な表情はどこか、ペットという肩書を超えた役割を担っているのかもしれない。


物語の舞台は今と昔が入り交じる郊外の一角


迷犬マジックと4人の主人公の暮らす街は、一戸建てと集合住宅が入り交じる郊外の街。

アーケード商店街、かがみ町商店街の2つの商店街はかつての賑わいが鳴りを潜め、年を重ねるたびにシャッターが閉まり続けていた。

人の営みが寂れてしまったわけではなく、地域の学生の情熱が行き交い、児童公園と森林公園、川と水路には自然が残る今と昔が入り交じる世界を舞台に、マジックは何を語るのか……。




キーワードは「繋がり」と「和」は?


人も動物も、誰かに関わって暮らしている。

普段は何気なさすぎて気が付かない「繋がり」を、マジックはリードを通して思い出させてくれる。

人と動物、動物と人、そして人と人。

マジックが出会う人々の、ほっこりするような「和」を感じられる1冊ですよ。

9月に出版予定の続編も楽しみですよね。
迷犬マジック : 2 (双葉文庫)

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