『読書の価値』森博嗣
著者 森博嗣
出版社 NHK出版
分類 実用書、思想・哲学
出版日 2018/4/10
読みやすさ ☆★★少し難しい
前回の紹介に続き、森博嗣さんの『読書の価値』を紹介させていただきます。
第1回のテーマは、「読書の価値観」を知ることでした。
森博嗣さんの読書の価値感はは「面白さ」と、「非日常的な感覚」を得られること。
今回の第2回は、「読書の仕方と本選び、つまらない本との向き合い方は?」をテーマにお伝えさせていただきます。
自分にあった本の選び方
森博嗣さんは、「本選びは友達選び」と言われます。
この言葉は、なんだかとても好きになれてきますね。
ビジネス書や実用書は新しい分野への「興味」、今取り組んでいる「確認」で選ぶ
本選びは、結局は、人選びであり、つまりは、友達を選ぶ感覚に近いものだと思える。
誰か面白そうな奴はいないか、あいつと少し話しをしてみよう、といった感覚だ。
そして、そういった場合には、二つの方向性が求められる。
一つは「未知」である。
あいつは、自分の知らないことを知っていそうだ。
何かにやにやして面白そうな表情をきている。
きっと、楽しい出来事に遭遇したのだ。
それを教えてもらおう、といった感じで本を選ぶ。
もう一つは、「確認」だろう。
自分が考えていることに同調してほしい、そういう友達がほしい。
中略)
この傾向は最近では特に顕著で、ネットで検索が楽になったこともあってから自分と相性ぴったりの人に出会いたい、と大勢が望んでいるようだ。
同様に、本についても、自分の意見を後押ししてくれるものを読みたい。
本を読んで、「そつだ、そうだ、やっぱり思った通りだ。これで良かったのだ」と思いたい。
読むことで自身を承認してもらいたい、という心理で本が選ばれるのである。
僕の場合を書いておくと、僕は完全に前者で本を選ぶ。
後者で選ぶものはや趣味の雑誌くらいだろう。
第2章 自由な読書、本の選び方 p76〜77
小説を楽しむ場合の他にも、読書は「何かを調べたり」「新しいことを身につける」、「目の前にある問題を解決する」ために本を読むこともあります。
ビジネス書や実用書、中には生き方の悩みの解決にエッセイを読むこともあるでしょう。
ビジネス書や実用書選びでは、知らないことを知ろうとする「未知」、「興味」と言い換えることもできますね。
また、今取り組んでいることや考えが合っているのかを「確認」する2つの目的があります。
森博嗣さんは、知らないことを知ろうとする「興味」で本を選ばれるようです。
これは、求めている内容にもよると思います。
私は、何か新しいことを始めるときには「興味」で本を選びます。
そして、取り組んでいることを見直すためには「確認」のために関連する本を選ぶことがほとんどですよ。
お金を払って本に価値を持たせる
本の選び方として、僕が指摘したいのはその一点だけ。
とにかく、本は自分で選べ。
それだけだ。
中略)
さて、その次に大事なことは、その本を手に入れるためにら自分の金を出すことである。
これは、金を自分で稼ぐようにならないと無意味かもしれないがら子供のお小遣いも擬似的な給料のようなものだから、だいたい、子供の場合も同様である。
第2章 自由な読書、本の選び方 p82~p84
我が家には子どもはいませんが、子どもにも本は「お小遣い」で選んでほしいですね。
これは、私たち大人にも当てはまるのではないでしょうか?
仕事のために「経費」で購入してもらった本、興味がわかなければ読むことはないでしょう、
もし、仕事の技術を身につけるために「自腹」で本を買ったのなら、買ったときには「興味」があり、内容に疑問を思っても最後まで読むことができるのではないでしょうか?
「自分でお金を出す」ことで、手元に来た本に価値を持たせることもできるのだと思えましたよ。
本選びに読書の時間の半分を使う
たとえば、一日に一時間の読書の時間があるなら、同じくらいの時間を、本探しにかけても良いだろう。
本を探して自分のために選ぶ行為は、それほど重要だということである。
そして、その本を探している時間もまた、自分にとって有意義なものになる。
中略)
なにものにも縛られず、自由に本を選びたい。
その自由は、ちょっとした努力で、誰でも手に入れることができるはずだ。
自由というのは、それを手に入れた者にだけわかる絶大な楽しさを伴う。
読書で得られるのは、この自由から導かれる楽しさなのである。
第2章 自由な読書、本の選び方 p110
森博嗣さんのように、自由を手に入れているわけではない花水(hanami)も本選びの楽しさは十分わかりますよ。
私も、限られた読書時間の多くを本選びに使ってもいいと思います。
読書は、本を探している段階で始まっています。
私が読書を始めるまでの流れを①〜⑦、読んでからを❽〜➓❶に書いてみました。
①興味のあること、知りたいことができる/確認したいことがある
②情報を集める/ラジオや突然情報が入る
③その分野の本が読みたくなる
④ネットで情報を集める
⑤気になる本をリストアップ
⑥店舗で手に取る/メルカリで買う
⑦迷いながらも1冊買う
❽読む
❾ところどころに付箋を貼ることもある
➓次の本が必要なら⑤に戻る
➓❶他の本に書き込むか、ブログでまとめる
時間がどのくらいかかるかは調べていませんが、1冊を合計で6時間で読んだとしても、同じくらいの時間を本選びにかけていそうです。
「読みにくい」は「読み応え」がある本
本は、読みやすい方が売れるから、僕は(ビジネスとして)そういう作品を書いているけれど、自分が読む本には、読みやすさは求めない。
むしろ読みにくい本、飲みがいのある本の方が面白い確率が高い。
ちょっとした癖のある作家の文章は、読みやすくはないけれど、読んだら味があるし、そういうものが読んで面白い文章だと思っている。
第5章 読書の未来 p197
時間に追われる現代では、読書の時間も限られてしまいます。
そのため、1回読んだだけで、また全てを読まなくても内容を理解できる「読みやすさ」が本に求められています。
読書が身近ではない人にとっては、「読みやすさ」のある本はたても大切。
読書をよくする方にとっても、限られた時間の中で著者の考えを知ることができる「読みやすさ」のある本がいいと思われるでしょう。
私も、読みやすい本が好きです。
ですが、1つ視点を変えてみると、なかなか著者の考えの深い部分を理解しにくかったり、難しい文章表現は「読み応え」があると捉えることもできるでしょう。
私は今まさに、『読書の価値』を読んでいて「読み応え」があると感じます。
冒頭から第1章までは、森博嗣さんの読書への思いがほとんどわかりませんでした。
読み進める度に、そして第3章、第4章と後半になるにつれて、森博嗣さんの「読書の価値観」を知ることができてきました。
これも、著者の狙いなのでしょうね。
「読みにくい」本を「読み応えのある」本と思い、著者の考えの深い部分、物語の背景にあるテーマを考えることも、読書の醍醐味でもあるのかなぁと思えましたよ。
本というもの、「つまらないと思う本」との向き合い方は?
「本は楽しいもの」
これは花水(hanami)の読書の価値です。
時には、つまらない本、難しい本もあるでしょう。
森博嗣さんは、つまらないと思う本にどう向き合うのでしょうか?
本は誰かの体験や考えを知る方法
つまり、自分の時間と空間内では経験できないことであっても、他者と出会うことによって、擬似的に体験できる。
人を通して知ることができるのだ。
これが、群れを成している最大のメリットだといえる。
沢山で集まっているほど、この情報収集能力が高まる。
誰か一人気づけば、みんながそれを知ることができるからだ。
第2章 自由な読書、本の選び方 p74
本は、「他の方の考えを知る」ことができる便利な方法の1つ。
もし、本で得られる情報の量と質を別の方法で得たいのなら…
きっと多くの時間と手間、お金がかかることになるでしょう。
本やネット以外では、直接著者に会う、著者の講演会を聞きに行く、講演会を聞いたことのある人に話を聞く方法があります。
著者と会えるだけの人脈を、多くの方は持っていません。
講演会に行った人を探すのも一苦労。
そして、講演会は本以上にお金がかかります。
誰かの体験や考えを知る方法として、本は時間やお金がかからない方法だと思いますよ。
アウトプットをするとインプットした情報が強く残る
僕の場合、大学の教官になって、学生に対して講義をするようになってから、人に話すこと、説明をすることで、もの凄く記憶に残ることがわかった。
中略)
不思議なことだが、アウトプットをすると、そのデータがより強固に頭の中に残る、「刻まれる」と表現できるような状態になるのである。
これは僕の想像だが、一度インプットしたものを、アウトプットすることで、頭の倉庫の別の場所に移せるのではないだろうか。
もしかしたら、出口付近にまで移動するから、以後すぐに出せるデータになるのかもしれない。
第4章 インプットとアウトプット p164
アウトプットをすることで、読書でインプットした情報が記憶に残りやすくなる。
これは、花水(hanami)がブログで「本を紹介」を始めてから、ずっと感じていたことでもあります。
本を読むことはインプット、ブログで本を紹介することはアウトプット。
単純に1回、インプットとアウトプットをしているだけに見えますが、1つの内容を書いた後、また次を書くために本を読み返します。
するとまたインプットとアウトプットが繰り返されます。
このインプットとアウトプットが繰り返されることで、記憶に強く残りやすくなっていくのでしょう。
著者の作品は読書の中に…
さて、インプットとアウトプットについて、僕が一つ心がけていることを、ここに記しておこう。
僕は小説を書いている。
これはアウトプットだ。
しかし、何のためにアウトプットしているのかといえば、一つは仕事だから(印税がもらえるから)だが、もう一つは、多くの読者が、それをインプットするからである。
そして、その多くの読者は、それぞれの頭の中で、なんらかのイメージを思い描くことになるだろう。
つまり、僕のアウトプットが行き着く先は、そこだ。
したがって、僕は結局はそれが僕の作品である、と考えている。
第4章 インプットとアウトプット p180
これは、作家さんにしか、中でも多くの本を読んでもらえる本物の作家さんにしかわからない考えなのでしょう。
ブログで情報を発信している花水(hanami)のアウトプットも、誰かの頭の中に行き着いているのでしょうか?
今は、まだわかりません。
つまらない本との2つの向き合い方
人間の場合は、たまに生理的に合わない人がいる。
近くにいるだけで嫌だ、と感じることだってあるはず。
中略)
本の場合も、ほんのときどきそういった噛み合わないものがあるかもきれない(僕の場合は、ほぼない)。
でも、人間の場合よりも手軽にシャットアウトできる。
本を閉じれば良いだけだ。
それで終わる。
そのあとを読まなければ良い。
中略)
ただ、簡単にやめられるからといって、嫌いなものは読まない、という姿勢を貫いていると、結局は損をすることになるだろう。
つまらないな、と感じても、とりあえず最後まで読む努力をする。
そのうえでやはりどうしてもつまらない場合は、次から同様の本には慎重に、という教訓になる。
同様の本にというのは、同じ作者、同じようなジャンル、同じようなタイトル、あるいは似たキャッチコピィの本などである。
中略)
それよりも、つまらないものならば、何がつまらないのか、という理由を探した方が良い。
また、どこかに、もしかして気づかなかった面白い部分があるかもしれない。
ものの見方というものがある。
なかには、砂金を取り出すくらい苦労しないと価値が見つからないものもあるにはある。
それでも、なにかは得られるし、それを探す技術が身につく。
結果的に自分が成長できるのだから、これは明らかに得をしていることになるのだ。
第2章 自由な読書、本の選び方 p89
『読書の価値』には、本の選び方の具体的な方法は書かれていません。
それは、人それぞれだからでもあると森博嗣さんが考えているからだと思います。
第2章でいちばん印象的だった内容が、「つまらない本へ」の向き合い方です。
次からの本選びを工夫する他に紹介された、2つの方法は特に頭の中に残りました。
「何がつまらないのか、という理由を探した方が良い」
「どこかに、もしかして気づかなかった面白い部分があるかもしれない」
理由を探すことで、自分の考え方と向き合うことができますし、面白い部分を探すことで、著者の考え方を深く探ることができます。
自分と向き合い、人と向き合うことで、成長につながることもあるのかもしれませんね。
「つまらない本」はない
本文でも書いたことだが、この世につまらない本などない、と僕は思っている。
読む本読む本、それぞれに面白い。
面白さが違う。
これは、人間がいろいろいる、ということだ。
どの人間も、きっと面白いところがある。
それぞれに、人とは違ったものを持っていて、生きている間に、それぞれがさまざまに出会い、学び、考える。そうったもので、本はできている。
だから、面白くないはずがない。
あとがき p220
「つまらない本」はない。
『読書の価値』を読むまで、私が「“つまらないと思う”本」はありました。
今でも、「“つまらないと思う”本」はあります。
ですが、本当に「つまらない本」はきっとないのでしょう。
私が「“つまらないと思う”本」も、別の視点で読む方、感じる部分の違う方にとっては「面白い本」。
逆も、また同じ。
だから、「“つまらないと思う”本」も紹介する価値があるなぁと改めて思うことができましたよ。
読書と本の価値って?
「読書の価値観」を知りたくて、タイトルがそのままテーマになっている『読書の価値』を読んでみることにしまいした。
はじめは、「あまり好きではないなぁ」と思えましたが、読んでいくうちに森博嗣さんの「読書の価値観」を知ることができましたよ。
私が『読書の価値』を読んで得られた、「読書の価値観」を大きく3つにまとめてみました。
読書の価値は「面白さ」と「非日常的な感覚」
「読書をする価値は?」
こう聞かれて、答えられることが2つ見つかりました。
それは
「本を読んで得られた面白さ」
「日常から離れた体験」
「面白さ」は、本以外にもDVDや音楽から得られることもあります。
「非日常的な感覚」は、仕事や家事から離れ好きなことをしている瞬間にも訪れます。
どちらも、やり方によっては身近に得られること。
それでも読書は、「面白さ」「非日常的な感覚」をお金をかけず、空いた時間で、あまり疲れずに得られるお得な方法だと思えませんか?
本は時間をかけて自分で選びたい
本の選び方で迷われる方も多いでしょう。
本好き、読書好きの花水(hanami)も、1冊を選ぶのにかなり迷います。
自分が「読みたい」と思える本を、時間をかけて選んでみては?
森博嗣さんは、読書の時間と同じだけ「本選び」に使うといいと言われています。
私も、思い返すと「本を読んでいる時間」より「本を探している時間」の方が長いくらいです。
時間をかけて、迷いながら選んだ本、もしかしたら面白くないかもしれません。
それでも、「本を探す」経験を積むことはでき、次回の本選びの役に立つでしょう。
大人でも子どもでも、本は迷いながら時間をかけて自分で選びたいものですね。
「“つまらないと思う”本」はあっても「つまらない本」はない
「“つまらないと思う”本」は、あると思います。
それは、本を「つまらない」と「思う」のは自分という人だから。
もしかしたら、「“つまらないと思う”本」も、他の方は「面白いと思う本」なのかもしれません。
人の数だけ、感じ方の違いはあります。
だから、「つまらない本」はないと森博嗣さんは言われるのでしょう。
森博嗣さんの『読書の価値』は、読書に興味があって、「本を読むこと」を深く知りたい方以外は、興味を持たれないでしょう。
『読書の価値』という本そのものが、読み進めなければ森博嗣さんの「読書の価値観」を知ることができない、ちょっと「難しい本」。
言い方を変えると、「読み応えのある本」です。
多くの方に進めることはしません。
ですが、「読書」というものに向き合いたい方は、ベストセラー作家さんでもある森博嗣さんの考えを知ることも、楽しみの1つなのかもしれませんよ。