うちの市長がなかなか辞めません
適度な田舎の地方都市 府任木市(ふにんきし)は、支持率5%の市長が再選を続け6年間も市民に不満だらけの政策を続ける謎があった。
支持率5%、不支持率80%の市長
人口30万人の地方都市 府任木市(ふにんきし)市長 節字大志(ふしじ たいし)は、国会議員時代に不祥事を起こした後、地方自治に返り咲いた70歳。
数カ月に1回報道される支持率はわずか5%、さらに地方紙の片隅にしか載らない不支持率は何と80%。
誰もが「そのうち辞めるだろう」と思い静観していた節字市長は、なかなか辞めなかった。
1人の市民の声
府任木市(ふにんきし)最大の謎と言われる市長。
あまりの支持のなさに退陣の運動が起きるかといえば、誰もが「そのうち辞めるだろう」と関心さえ持たない。
府任木市のスーパーチェーン店に勤める会社員 井間八女郎(いま やめろう)は、パート勤務の妻 春奈(はるな)と3歳の娘 神奈(かな)と暮らす30代。
政治にはほとんど無関心で、市長選挙で誰に投票していたかも思い出せなかった。
市協力金制度で絞り上げられる収入
公共料金の高さは全国ベスト8、住民税と健康保険料の高さも全国トップレベル。
それでいて、他の市町村では行われつつある高校無償化、幼児教育の無償化と子どもの医療費無料化とは縁のない政策。
市協力金制度
さらに市民に適度な負担となっていたのは、確定申告、年末調整後に収入の3%ほどを府任木市に納付する「市協力金制度」。
平均的な収入の市民にとって支払えない金額でもなければ、喜んで支払える金額でもない。
歳入は赤字事業と使途不明金へ
市協力金制度で集められたお金の行き先は、広報の片隅に気がつかないくらいの枠で載るのみ。
釣り人しか使わない防波堤の建設、数千万がかかる地域の人は誰も行かないイベント、そしてよく見ると半分以上の金額が「その他調整費用」と記載されている。
地元事業主支援制度
収入の3%ほどを納付する「市協力金制度」の他に、「地元事業主支援制度」というものがあった。
この地元事業主支援制度の実態は、一定額以上の所得税を納めている高所得な事業主へ、「支援金」という形で税金を返す制度だった。
大実業家、大口投資家との癒着
府任木市は、節字大志市長の支持率の低さの割には、国内外の資産家や実業家にとって人気の市町村でもあった。
過去の国会議員時代に、大企業幹部との金銭問題で辞任した節字市長には、府任木市内に住民票のある有名実業家、大口投資家との癒着も囁かれていた。
#うちの市長がなかなか辞めません
会社員の井間八女郎(いま やめろう)と妻 春奈(はるな)、3歳になった娘 神奈(かな)は、頂き物のキノコが原因の食中毒で10日ほど入院してしまう。
驚いたのは、退院してからの高額の医療費。
中でも、子どもの医療費がかからない市町村もあるという。
調べてみると、自分たちの暮らしている府任木市には、日本国内で最低限の社会保障しかなく、他の市町村より高額な公共料金と税負担、さらに何気なく支払っていた「市協力金制度」も他の市町村にはないものだった。
暮らしの不満を綴っていた八女郎 のTwitterに、思わぬ反応が………。
#うちの市長がなかなか辞めません
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さらに、政治問題を取材しているフリージャーナリスト近秋中男(きんしゅ なかお)からメッセージが届いていた。
市長を辞めさせるには
かつて、政治家のスクープを記事にしたことで出版社を追われた近秋中男(きんしゅ なかお)は八女郎に市長を辞めさせる運動を提案する。
リコール制度
有権者の3分の1以上(有権者総数が40万人を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上)の署名を集めて選挙管理委員会に請求できる
地方自治法第81条第1項
出版社を追われた後、フリーランスの仕事と海外取材で生計を立てていると話す近秋中男の話は、テレビに出るジャーナリストとは違う市民の暮らしの細かな目線を持っていた。
待ち合わせの老舗の喫茶店から、流行りのチェーン店に場所を変えてから聞く話は八女郎が今まで疎かにしていた政治の知識を補うのに十分な内容だだた。
「市長を辞めさせるためには、市議会の不信任決議と住民投票の2つの方法があります。市議会は、現在政権与党、つまり市長がかつて所属していた政党が過半数の議席を持っているので、我々の方法は住民投票に限られてしまいます」
文章のひと言ひと言を区切るような、それでいて1つの道を流れるように近秋は話を続ける。
「住民投票には、まず市民の3/1以上の署名を集めて選挙管理委員会に提出する必要があります。府任木市は人口が30万人、その中で有権者は24万人、必要な署名は8万人です」
市長を辞めさせるためには、まず選挙権のある有権者の1/3以上の署名を集め住民投票を開催する必要があるようだ。
「8万人というと不可能に思えそうですが、過去にも例があり決してできないことではありません」
住民投票請求の署名活動は難航…果たして八女郎たちの活動は…
ジャーナリスト近秋中男の予想では、市街地に昼の人口が集中する府任木市の署名活動は難しくはない、はずだった。
署名活動を開始した12月から流行した原因不明の風邪、府任木市は全国に先立って感染症へ立ち向かうことを宣言し大胆な外出自粛要請を発表した。
府任木市感染症予防宣言
×屋外で不特定多数へ向けたイベント活動を禁止する
×通勤・通学の際の5分以上の立ち止まりを禁止する
×業務外での家族・知人以外の居宅への訪問は自粛する
署名活動とタイミングを合わせたような事実上の活動禁止。
果たして八女郎たちの市長退陣運動の行くへは………。
ふと閃いた社会小説
いつも小説を読んでいるためか、物語をひらめくことはよくある花水(hanami)。
今回は、社会小説といわれているジャンルのコメディ小説を思いつきました。
もしかしたら、こういったことってあるのかも。
コメディ映画化されたら、多くの人を笑わせてくれる作品に仕上がりそうな、予感がします。