『1985年の奇跡』
著者 五十嵐貴久
出版社 株式会社双葉社
分類 小説、青春小説
出版日 2019.8.11
読みやすさ ☆☆☆とても読みやすい
今月の小説は、五十嵐貴久さんの『1985年の奇跡』。
1980年代を舞台にした、野球の弱小高校が夢見る奇跡の物語。
主人公が忙しくなく舞台を駆け巡る「五十嵐ステージ」に没頭できる青春小説です。
登場人物~都立小金井公園高校野球部ナイン
『風の谷のナウシカ』の生みの親 宮崎駿が見守る東京都小金井市。
発展を続ける都会の傍ら、小金井公園で青春を過ごす都立小金井公園高校野球部ナインの紹介です。
なお、打順はジャンケンで決まります。
ショート キャプテン オカ(岡村浩二)
野球もルックスも成績も「可もなく不可もなく」を自称する、小金井公園高校野球部のキャプテン。
当時の日本企業、中間管理職の背中が見える断れない男。
物語の語り部が、時間つぶしと趣味で続けていた野球で見えた希望のようで近い現実のような「夢」とは…。
エース 沢渡(沢渡俊一)
1回戦全廃の歴史を積み重ねる、小金井公園高校野球部に現れた転校生。
爽やかなイケメンで転校初日から男子人気のトップに迫る彼は強豪海南高校でレギュラーを務めた剛腕ピッチャー。
青春を野球に捧げていた少年は、完治していない「怪我」を抱えて強豪校のマウンドを降りていた…。
リリーフ カズ(池田和義)
沢渡が転校してくるまでマウンドに立っていた、男子人気ランキング9位のカズ。
ピッチャーとしての実力は、ノーコンでストライクが入らないほど…。
おニャン子クラブは新田派で、カンサイとは対立関係にある。
喧嘩っ早い野球男子の気分は、チームを盛り上げてくれるなくてはならない存在。
ファースト アンドレ(安藤豊)
180cm120kg、相撲部屋からスカウトが来たほど恵まれた体格。
ただ、風貌に合わず優しすぎるアスリートの対極にいる性格。
チームを和ませてくれる「いじられ役」的なマスコット。
サード イートン(飯塚博史)
オカ、沢渡と少年時代を過ごした眼鏡の似合う野球少年。
器用な野球の技術は確かなものでも、活かされているのはマジック用品を悪用したイカサマギャンブル。
本気になった野球少年が朧げに抱く希望の先は…。
外野手 小田三兄弟(裕一郎、裕二郎、里志)
3つ子に間違えられる1年生部員。
年子の兄と双子の弟は、同じ部員でも見分けがつかず「三兄弟」とまとめられてしまう。
奇跡が起こる物語の始まりは?
都立小金井公園高校、開設以来1回戦敗退の歴史が続く弱小野球部で野球モノマネと夕方のおニャン子クラブの番組を楽しむ小金井公園高校ナイン。
悪魔のような中川義彦校長が管理する成績第一主義の高校は、軍隊と予備校をかけ合わせた「収容所」と呼ばれる管理教育高校。
成績順にAからFまでのクラスに分けられ、勉強の支障になるからと満足なグラウンドさえ与えられない運動部。
環境もやる気も実力も身につかない弱小野球部に、強豪海南高校でレギュラーを務めた剛腕ピッチャー沢渡が転校する。
「もしかすると今年は甲子園に…」
野球よりも青春に全てを捧げていた小金井公園高校ナインに、高校球児の夢を見させてしまうほどの球威を持つ沢渡。
彼の抱えた「怪我」だけが、希望が射し込む道に避けるか除けるかを迫るように居座っていた…。
1980年代に広がる五十嵐ステージ
舞台は、1980年代の東京都小金井市。
都会の喧騒と郊外の穏やかさが入り交じる、少しだけ懐かしいレトロな風景。
自分たちの暮らしとは遠い世界をテレビで見て、目に見える世界の中で制約スレスレの楽しみとスリルを見つける。
通学路には、人里離れたような世界で暮らす秘境のような店が密かに残る。
「世界はどこまで続いていて、どうなっているんだろう」
周りに広がる世界の、端から端まで忙しなく走り回る主人公オカ。
主人公目線で少しずつ広がる物語の舞台、小説の世界に入り込んでしまいそうな五十嵐ステージが広がっています。
奇跡が起きるわけ
甲子園、プロ野球、オリンピック、私たちが過ごした青春の中で奇跡を目にしたことはあります。
ただ、運だけで物事が決まらないように、奇跡にはいくつかの条件があります。
30代以上の方が中高生の頃に出版され、未だ人気の衰えない漫画『SLAM DUNK』の安西先生の台詞に触れてみます。
選手たちもどこか集中力のない顔つきをしていた…
その彼らの顔つきが変わった
100%ゲームに集中し始めた
奇跡というのは起きるものです
ウチの選手達が勝ったと思っているとしたら…
安西先生
『SLAM DUNK』24巻P157
安西先生によると、奇跡は①味方の100%の集中力と②相手の油断の2つが揃ったときに起こりやすいとされています。