『見抜く力―夢を叶えるコーチング』平井伯昌
著者 平井伯昌
出版社 株式会社幻冬舎
分類 実用書、ビジネス書
出版日 2008/11/1
読みやすさ ☆☆☆とても読みやすい
今月の本の紹介は、競泳界の名指導者 平井伯昌さんの本を選ばせていただきました。
タイトルに書かれているように、相手の導き方と教え方「コーチング」が学べる1冊です。
誰かを教える役割にある人にとって、「教えること」の基本から極意までを、平井コーチと北島康介さんなど選手の方とのエピソードを交えて知ることができる実用書です。
平井伯昌さんの紹介
平井伯昌さんというお名前を聞いて顔が思い浮かばない方でも、「平井コーチ」と聞くと北島康介さんや萩野公介さんが思い浮かぶのではないでしょうか?
改めて、平井伯昌さんの経歴を本の中のから紹介させていただきます。
平井伯昌コーチの経歴
・1982年、早稲田大学へ入学。水泳部では、選手からマネージャーへ転向
・1987年、東京スイミングセンターに入社し水泳コーチになる
・1996年、北島康介さん、中村礼子さんの指導に当たる
・2004年、アテネオリンピックで北島康介さんが金メダルを獲得
・2008年、北京オリンピックの水泳日本代表コーチに就任。北島選手・中村選手らがメダルを獲得、日本代表選手を「世界に通用する競泳」へと成長させる
・2021年、東京五輪後に日本代表競泳ヘッドコーチを退任
アテネオリンピックから北京オリンピックまで活躍した北島康介さん、リオデジャネイロオリンピックから東京オリンピックまで活躍した水泳解説者の萩野公介さん、東京オリンピックで活躍し今なお現役の大橋悠依さんを育てた名コーチとして、これからの水泳界にも欠かせない方です。
『見抜く力―夢を叶えるコーチング』の構成と読みやすさ
『見抜く力―夢を叶えるコーチング』は、一般的な新書のサイズでとても読みやすい本ですよ。
『見抜く力―夢を叶えるコーチング』を読みたくなったキッカケは、「教えること」を学びたい
私が『見抜く力―夢を叶えるコーチング』を読みたくなったキッカケ、それは「教えること」を学びたいからです。
先生でもインストラクターでもない一般職の会社員でも、誰かに「教えること」は少なくはないんです。
少なくはなくても、「教えること」を本格的に学んだことはありません。
首都圏の企業で働いている方のように、研修会や講座の受講は限られています。
本業の業務に関する勉強も欠かせないため、どうしても「教えること」の勉強は後回しになりがち……。
それなら、「教えること」の専門家に学ぶのが1番、そう思えた時に見かけたのが、競泳界の名コーチ、平井伯昌さんのお話だったんです。
それでは、平井伯昌さんの本の中から、会社員の方にも役に立つ「コーチングの基本」と「平井コーチの極意」を取り上げさせていただきますね。
「教えること」コーチングの基本
『見抜く力―夢を叶えるコーチング』に書かれていたエピソードの中から、平井コーチが大切にされていることを4つ取り上げさせていただきました。
①指導者の基本は「謙虚な心」
②「なぜできたか」を伝える
③勝敗よりも「できたこと」
④伝え方は「ワンポイント」で
この4つは、「教えること」コーチングの基本として覚えておきたいことです。
①指導者の基本は「謙虚な心」
自分でもある程度の成績を残したことがあれば、指導する際にどうしても自分の体験が含まれてしまう。その体験の「負」の部分、こだわりやコンプレックスが、眼鏡を曇らせてしまうことはあり得る。自分の目の前の選手をあるがままに受け入れる「謙虚」さが大切なのだと思う。
・第二章 選手から指導者の道へ p50
目の前の相手を、あるがままに受け入れることを「謙虚」さと平井伯昌さんは書かれています。
私も後輩や研修生の方への言葉づかい、何かを教えるときの周りの環境には気を配っていましたが、基本になるのは「謙虚な心」なんですね。
いわゆる成功パターンやビジネス書に書かれているモデルとはズレていても、相手が考えて行動する姿を、「あるがままに受け入れる」心を持ちたいですよね。
②「なぜできたか」を伝える
いちばん大切なのは、悪くなったときの「リカバリー能力」なのだ。そのためには、なぜできないのか、ではなく「なぜできたのか」のいいときの反省が必要なのである。
・第三章 見抜く力 p84
物事が上手く進んでないとき、どうしても「ここを直そう」と指摘することは教えるときのアドバイスではよくあることではないでしょうか?
物事が上手く進まないとき、大切なことは上手くいく方向へ軌道修正する「リカバリー能力」が大切と書かれています。
そのためには、上手くできたときに「なぜできたのか」を振り返ることが肝心。
これは、すぐにでも取り入れたいことですよね。
③勝敗よりも「できたこと」
勝ち負けはあくまでも結果であり、コーチとしての仕事は、選手の可能性をどこまで引き出せるか、選手であれば、自分のレースができたかどうかということが、もっとも重要なことなのである。
・第四章 人を育てる p112
スポーツはもちろん仕事では、勝ち負けや売上・契約件数など結果だけが注目され評価されます。
誰かへアドバイスをするときだけは、相手が「できたこと」に注目することが、可能性を引き出すことにつながる。
そのためには、「できたこと」の理由を教える側が正確に分析できないとならないんですね。
④伝え方は「ワンポイント」で
試合の前などにコーチするときは、選手に反省すべきポイントを話させて、自分なりの解決法を考えさせ、いろいろな問題点を探っていく。
ところが、泳ぎの悪いところを修正し、より改良して行こうとするときには、問題点を1つに絞らなければならない。そのポイントが複雑になると、泳ぎに集中できなくなって、修正することが難しくなるのだ。
・第四章 人を育てる p117
これは、私自身にもいえることですが、複雑すぎるアドバイスや指示は、結局何が言いたいのかわからないものです。
アドバイスを受ける側は、修正することに集中したいはずです。
教わる側のコミュニケーションには、負担をかけずワンポイントで伝えるよう心がけたいものです。
平井コーチの極意
「教えること」コーチングの基本に加えて、平井伯昌さんならではの教え方のポイントを2つ選んでみました。
①教える相手との距離感
②得意なところを伸ばす
この2つは、読んですぐできることではないと思い、「平井コーチの極意」として紹介させていただきます。
①教える相手との距離感
オーバー・コーチングには、距離感がオーバーになって、より近づきすぎてしまうという意味合いも含まれている。
コーチが何でも全部知っていなければならない、ということはない。選手自身が自覚を持ってやる部分を残しておかないと、自立もできないし育っていかないのだ。
・第四章 人を育てる p116
後輩や研修生が身近にいると、失敗しないようにあらかじめ手回しをすることはよくあることではないでしょうか。
最近は、「失敗を重ねて経験を積む」よりも「成功体験を重ねる」方が効率もよく、気持ちの負担も少ないとされています。
私も、「成功体験を重ねる」ようにできるだけ失敗が少ないよう手回しをすることがほとんどです。
ただ、後輩や研修生の全てを把握して、何から何まで教えることはオーバー・コーチングになると書かれています。
「これは自分でできる」という部分をあえて残すことが、相手の自立と成長につながり、ひとり立ちした後に役に立つ。
大きな失敗をしないよう手回ししながら、自分で判断する機会を残しておく、見極めは難しいことでもありますよね。
②得意なところを伸ばす
選手としては、むしろ突出している部分があるほうが魅力的だ。
むろん、突出している分だけ、ミスが出る危険性もある。しかしわそれはマイナスにはならない。反省点があるから、次のレースに向けて有効な対策を講じることができるのだ。
中略)
そうした選手を育てる場合は、まず得意なところをどんどん伸ばすことを考えた方がいい。選手にとっても取り組みやすいし、特化することによってその選手の特色もはっきりとしてくる。凹凸の凹の部分については、それほど急がず、徐々に強化していけばいいのだ。
・第五章 水を究める p131
平井伯昌さんはスポーツを例に書かれていますが、仕事でも得意なことと苦手なことの差が大きい方は少なくはないはずです。
書類作成は正確でも接客は苦手、プレゼンテーションは得意でもスケジュール管理が苦手、誰にでもあることではないでしょうか。
私の学生時代や社会人になりたての頃は、「苦手なことを克服する」ことが大切とされていました。
平井コーチが北島康介さんを教えられていた頃は、周りの方はきっとそうだったのでしょう。
「得意なところを伸ばす」、得意なことがその方の武器になり、苦手なことを補えるだけの価値を持ったとき、きっと魅力的な社会人になるのでしょう。
「何が」「どうして」得意なのかを細かく見極め、得意なことが伸びる環境を作れるよう、私も工夫していきたいです。
後輩を持った先輩、教える役割にある人におすすめの1冊
『見抜く力―夢を叶えるコーチング』には、今回取り上げさせていたいた、「教えること」コーチングの基本と平井コーチの極意の他にも、教え方の技術が盛りだくさんです。
スポーツインストラクターの方など学生さんを教える役割にある方、勤務先で若手の後輩を教える先輩、サークルなどでまとめ役を務める方におすすめの教え方の教科書になってくれるはずですよ。
最後に、平井コーチの言葉で締めくくらせていただきますね。
コーチと生徒、先輩と後輩は平等
生徒たちに向かって上からものを言うような態度は、反発を買ったりするだけだ。上から目線や、腹を立てて怒鳴るだけでは思うような指導はできない。初心者に限らず、どんな人を相手にする場合でも、指導者はまず謙虚な心をもつ必要がある。
それが、指導者としての「イロハの、イ」であることを忘れてはならないと思う。
・第二章 選手から指導者の道へ p53
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