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坂木司「引きこもり探偵シリーズ」の名探偵の成長と探偵の2つのタイプ【ネタバレ】

坂木司の描く名探偵 鳥井真一の成長

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ミステリ作品で活躍する探偵は、「思慮型探偵(しりょがた 探偵」と「行動型探偵(こうどうがた たんてい)」の2つのタイプに分けられます。

今回は、私の大好きな「引きこもり探偵シリーズ」に登場する名探偵 鳥井真一の捜査と推理のスタイルを作品ごとに2つのタイプに当てはめてみました。

「引きこもり探偵シリーズ」の名探偵 鳥居真一の暮らしと人柄


鳥居真一は、坂木司さんのデビュー作「引きこもり探偵シリーズ」に登場する探偵役の青年。

ひとくせもふたくせもある、独特な感性を持った人物です。


鳥居真一とは?

鳥井真一は暮らしの中で起こる、「日常の謎」を状況証拠を積み重ね、論理的で鋭い推理で解決する名探偵。

作品の主人公 坂木司とは、中学生の頃からの親友でお互いになくてはならない不思議な関係。


鳥居真一の暮らし

シリーズのタイトルが「引きこもり探偵シリーズ」とあるように、鳥居真一はいわゆる引きこもりの青年。

といっても、プログラマーとして自宅で仕事をこなし、必要な物は通販で済ませていて坂木司をはじめ友人もいる。

経済的にも社会的にも自立した引きこもりではあります。

趣味は、日本中の食材を通販で取り寄せて作るこだわりの料理。

作中でも、彼の自宅を訪れた登場人物たちとの食事は味や見た目に細かくこだわった料理が振舞われているのが印象的なシーンですね。


鳥居真一の性格

引きこもりの青年という独特の立ち位置もあって、彼の性格もまた個性的。

鋭い観察力と同じくらい繊細な、透明で澄みきってはいても脆いガラスのような感性の持ち主。

中学生の頃に受けたイジメが原因で、親友の坂木司を通した相手以外は信用しない人間不審が引きこもりから抜け出せない理由でもあります。

さらに極端に少ない人間関係も相まって、初対面の人物に突然失礼な言動をとることも。

シリーズ第3作では、いじめのあった中学生の頃エピソードが語られることに。

いじめの主犯で、クラスの中心的な存在の谷越淳三郎とのやりとりの場面では、興味のない人物(谷越ら)を会話であしらう様子もちらほら。

帰国子女で同級生以上の知識と、論理的な頭の回転の速さの中学生の鳥居真一。

勉強もスポーツも凡庸ではあっても、巧みな会話と人間関係でクラスの中心になっていた谷越淳三郎は、口げんかでまともに反撃もできないほど叩き潰されたことを発端にクラス全体を巻き込んだいじめを行う。

大人になった鳥居真一の誰に対しても「先入観のフィルター」を通さない、裏表のない態度として受け入れられていました。

また、シリーズ第1作『青空の卵』の彼の行動の原則は、親友の坂木司と自分に必要な物事に限られる。

その後の『仔羊の巣』『動物園の鳥』では、悪意のない誠実な人柄の登場人物に囲まれ、少しずつ周りの人にとっての視点を持つように成長してゆく。



鳥居真一の推理のスタイル

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「引きこもり探偵シリーズ」の鳥井真一は、警察のように監視カメラや指紋採取など決定的な証拠を上げられない環境での捜査がほとんど。

限られた証拠からの推理を余儀なくされる中で、犯行の時間や被害から犯人像を絞り込み、状況証拠を集めて犯人を追い詰めるタイプの探偵です。


『青空の卵』

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『青空の卵』で鳥居真一が活躍する事件は3つ。

後々に鳥居真一と坂木司のサポート役になる巣田香織、盲目の大学生 塚田基は初めは事件の被害者として関わることに。

木彫り職人で、下町で長年過ごした江戸っ子の木村栄三郎も事件の関係者として登場しています。

それぞれの事件で鳥居真一は、犯人を暴く段階で関係者と顔を合わせることはあっても、現場での証拠集めのほとんどを相方の坂木司、友人の警察官 滝本孝二と後輩の小宮に託して、推理に集中する役割をこなしています。


『仔羊の巣』

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「引きこもり探偵シリーズ」の人間関係が出来上がった2作目『仔羊の巣』では、鳥居真一にとってなくてはならない親友 坂木司に関わる事件が起こります。

坂木司の職場で起こった出来事では、事件の現場が坂木の職場ということもあり、坂木が話した状況証拠を元に同僚 佐久間恭子の不可解な行動を解き明かす姿は、1作目の推理の方法と大きくは変わりません。

ですが、坂木が直接暴力を振るわれた出来事で鳥井の様子は変わってゆきます。

坂木司の証言で、犯人像を坂木の人間関係に恨みを持つ未成年と突き止めた鳥井は、坂木とともに現場に向かい犯人をおびき出す罠を張ることになります。


『動物園の鳥』

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「引きこもり探偵シリーズ」最終作は、動物園での野良猫の虐待事件と日常の謎の中でも刑事事件に近いシリアスな事件が起こります。

親友 坂木司や木村栄三郎、巣田香織らとの交流で交通機関で30分くらいの距離まで外出できるようになった鳥井真一。

今回の動物虐待事件では、刑事事件での初動捜査の段階、証拠集めと聞き込み、犯人を暴く段階の3つの場面で積極的に現場に足を運んでいます。

中でも、鳥井自身が初動捜査から現場に向かったことは事件の解決に大きく影響することに。

不特定多数が出入りする動物園という場所は、犯人像の絞り込みが難しい事件現場。

その中で、獣医師から被害にあった野良猫に薬物が使われていたこと、虐待後の野良猫から犯行時刻が割り出せたことと使われた固形の香水という物証を抑えることができたことは犯行の決定的な証拠になります。



思慮型探偵から思慮型+行動型探偵への成長

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ミステリ作品で活躍する探偵は、2つに分けられます。

1つは、証拠集めは仲間に託して推理に集中する思慮型探偵(しりょがた たんてい)。

もう1つは、積極的に証拠集めに関わり、犯人に罠を仕掛けておびき出す行動型探偵(こうどうがた たんてい)。

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「引きこもり探偵シリーズ」3作品を通して、鳥井真一の捜査のスタイルは思慮型探偵から思慮型+行動型探偵へ成長します。

中でも、最終作『動物園の鳥』では初動捜査から現場に向かったことで、後々に決定的な証拠になる物証を抑える成果を上げることに。

鳥井真一が思慮型+行動型探偵へ成長したことは、犯人像の絞り込みが難しい不特定多数が出入りする環境で事件を明らかにすることにつながります。

「引きこもり探偵シリーズ」は、社会で暮らしていく20代前半の若者の成長をテーマにした作品。

もう1つのテーマに、難事件に挑む探偵の成長の物語という著者のメッセージが込められた作品でもあるのではないでしょうか?



坂木司さんと「引きこもり探偵シリーズ」のリンク


日常ミステリ作家 坂木司
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『青空の卵』
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『子羊の巣』
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『動物園の鳥』
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