食堂かたつむり
著者 小川糸
出版社 株式会社 ポプラ社
分類 小説
出版日 2010/1/5
読みやすさ ☆☆☆とても読みやすい
小川糸さんの『食堂かたつむり』は、私が本屋さんでタイトルが気になり、1ページ読んだだけで衝動買いをした1冊です。
やっぱり小説選びは直感です!
https://www.yu-hanami.com/entry/2017/08/17/180404
衝動買いは大当たりで、序盤の感情を揺れ動かされてから、一気に小川糸さんの世界に引き込まれて気づいたら読み終わってしまうほど。
本の紹介を書いておいて変な言い方をしますが、紹介を読む前に『食堂かたつむり』を読んでください。
登場人物
倫子
主人公の倫子は10代で故郷を飛び出し、都内のトルコ料理店で料理人として働く感受性豊かな女性。
同棲中のインド人の恋人に祖母の形見の「ぬか床」以外を持ち逃げされ、それまで培った全てを失ったと感じた倫子は、東京を飛び出し夜行バスで故郷の山間の村に向かう。
全てを失ったと感じていた、倫子、彼女には失ってはいないもの、身につけた料理の腕が残っていた。
倫子の母 ルリコ
倫子の1人親の母ルリコは、山間の村でスナックアムールを営む文字通りのママ。
愛豚と2人で村の人達に囲まれながら暮らす母は、傷つき帰ってきた倫子を、甘すぎない程度に暖かい条件で受け入れることになった。
熊さん
通称「熊さん」、倫子が小学生の頃には学校の用務員さんをしていた大柄の男性。
山間の村の自然のことなら、誰よりも詳しく村の人からの信頼も高い優しいおじさんは、帰ってきた倫子を誰よりも支えてくれる頼もしい存在。
倫子の祖母
物語の中では既に他界している倫子の祖母。
故郷を飛び出した倫子と都内で暮らし、料理人の「心」、食べ物に感謝する人としての「心」を育ててくれた人物。
祖母の存在は、形見の「ぬか床」とともに倫子と一緒に生き続けていた。
物語の始まり
目を覚ました倫子に、それまでの日常はなかった。
インド人の彼と暮らす部屋には、物とともにそれまで積み上げてきた暮らしも全て無くなっていた。
感情は凍りつき、声さえ枯れた倫子。
倫子には、もうそこで暮らしていく理由も無くなってしまう。
唯一残った祖母の形見の「ぬか床」を胸に、夜行バスのシートに抱かれ、傷ついた1人の少女に戻った倫子がたどり着いた故郷の山間の村。
暮らしも思い出も声も失った倫子、残されていたものもあった。
祖母に育ててもらった料理人としての心と、食べ物の命を大切にする人としての心。
もう1度、料理人をしてみよう。
実家の敷地にあるプレハブ小屋で、料理店を始めることになった倫子。
お店の名前は、かたつむり食堂。
自然の中で暮らす山間の村
物語の始まりは倫子の暮らす東京都内ですが、食堂かたつむりを始める山間の村は山道を抜けると海にも出られる地域。
四季のはっきりとした、雪も積もる辛さと暖かさの混ざる天候、私は東北の日本海側を思い浮かべてしまいましたね。
四季がはっきりしている物語の山間の村、豊かに移り変わる食材で季節が表現されていて、倫子たちが暮らす風景が鮮やかに浮かんできますよ。
テーマは「食べること」の目線
料理人の主人公の倫子の営む、食堂かたつむりとタイトルにもある通りテーマは「食べること」。
普段何気なく口にする食べ物、その1つ1つが生き物の命。
私たちは命を頂いているんですね、当然ですが…。
命をつなぐ行為である「食べること」。
料理は食べる側の私たち目線だけで美味しく食べるだけではなく、食べ物のとして命を分けてくれた生き物たち目線で、この世の最後の姿を見送ってあげることでもあるわだったんだと、考え込みながらも料理が美味しいこと、食事を通して人と人が通じ合うことに感動した1冊でした。