小説の種類とジャンル、作風・長さ・内容・時代と思想での分け方
このページは、読書好きでも疑問がつきない「小説の種類」を解説させていただくお話です。
今回は、文学賞の受賞作品の紹介で使われる「純文学」「大衆文学」といった作風での分け方。
作品の長さを表す「長編小説」「短編小説」といった分け方。
最近では、「推理小説」「ファンタジー小説」のように、ほとんどの小説が何かしらの種類に分類されるストーリーと舞台設定のジャンル分け。
少々専門的ですが、小説が書かれた時代と作家さんの思想別の「近代文学」「現代文化」の分け方もあります。
小説の種類が生まれた背景、種類別に有名な作家さんを例にまとめさせていただきますね。
- 小説の種類とジャンル、作風・長さ・内容・時代と思想での分け方
小説の種類の4つの分類方法
ひと言で小説の種類といっても、「SF長編小説」のように、いくつかの種類が合わさった紹介がされることがほとんどです。
そこで、有名作家さんが示した定義や文学賞の募集要項をもとに、次の4つで整理ことができます。
「作風」
「作品の長さ」
「ジャンル」
「時代背景や思想」
作風は、小説が文章表現の「芸術性」の高さを求め描かれているのか、ストーリーや登場人物の関係を楽しむ「娯楽性」を大切にするかで小説を2種類に分ける分類方法です。
作品の長さは、作品のページ数の長さで小説を3種類に分ける分類方法です。
ジャンルは、作品のストーリーと舞台設定の内容による分類方法で、大まかに12種類の小説の分けることができます。
時代背景は、日本国内では戦前と戦後で近代文学と現代文学の2種類に分けられ、近代文学は思想によってさらに細かく分けることができます。
小説は作風で純文学と大衆文学に分けられる
芥川賞のノミネート作品になる純文学、直木賞のノミネート作品になる大衆文学、小説の作風は純文学と大衆文学の2種類に分かれます。
純文学
純文学は、明治時代に作家の北村透谷さんによって「学問のための文章でなく美的形成に重点を置いた文学作品」と定義されました。
純文学で重視される小説の作風は「芸術性」、それは人の心の美しさも醜さも露わにする文章表現、情景が飛び込んでくるような風景描写。
以降、芥川龍之介を始め、純文学作家の方々は作品の芸術性を突き詰めるように小説の世界観を文章で表現することを求めていくようになります。
大衆文学
純文学は作品の芸術性の高い作品ですが、大衆文学はどのような作品なのでしょうか?
大衆文学は「作品の娯楽性」を重視している文学作品といわれています。
この「娯楽性」には、取り上げるテーマ、物語のストーリー、登場人物のキャラクターであったりします。
大衆文学が純文学から分けられたのが、大正から昭和にかけて。
谷崎潤一郎をはじめ、多くの大衆文学作家の方々は小説の「ストーリーの面白さ」を求めるようになります。
ストーリーを重視した小説の作風は、昭和から令和までに多くのジャンルを生み出す元になりました。
純文学と大衆文学の違い
純文学と大衆文学は、それぞれが成り立った当初は分け方が明らかでした。
純文学は、芸術的な表現と世界観が描かれた作品。
大衆文学は、テーマやストーリーの面白さが含まれる娯楽性の高い作品とされ、文学賞や出版業界が「この作品は純文学」というように書く側も出版や批評する側も明らかな基準を持っていました。
ですが、ここ10数年は純文学を対象にした芥川賞でも、ストーリーの面白さが評価される作品が受賞し、大衆文学作品を対象にした直木賞や山本周五郎賞で独特の登場人物や世界観が描かれた作品が受賞することも珍しくはありません。
純文学と大衆文学の定義には明らかな違いがありますが、作品の垣根はより曖昧になりつつあります。
小説はページ数の長さで長編小説・中編小説・短編小説に分けられる
小説は、作品の長さによってもいくつかの分け方があります。
小説のページ数が長さが長い順に、長編小説、中編小説、短編小説の3つに分けられています。
出版社によって細かな違いはありますが、文学賞の応募規定を参考に400字詰め原稿用紙の枚数によって小説の長さの違いと文字数でまとめることにしますね。
長編小説
長編小説は、400字詰め原稿用紙300枚から550枚、文字数120000〜250000文字。
2冊分の厚さのある小説や、上巻と下巻に分かれた小説が長編小説になります。
小説の長さでは、最も長く読み応えのある作品です。
中編小説
中編小説は、400字詰め原稿用紙100枚から300枚、文字数40000〜120000文字で長編小説の次に長い小説です。
私たちが手にすることの多い文庫本1冊は、中編小説の長さと同じくらいです。
新人文学賞の募集規定に多く、実は身近な小説の長さが中編小説なんです。
短編小説
短編小説は、400字詰め原稿用紙10枚から100枚、文字数4000〜40000文字と長さに幅のある小説です。
短編小説でも特に短い作品は、ショートショートと呼ばれることもあります。
短編小説のみでは、出版することが難しいため、複数の短編小説を集めた短編集として。
また、他の中編小説と合わせて出版されることがほとんどです。
小説は内容で細かなジャンルに分けられる
大衆文学は現代では、エンターテイメント小説(エンタメ小説)とも呼ばれるようになり、作品の内容によって多くのジャンルが生まれました。
中には青春・恋愛小説、経済・ミステリ小説のように複数のジャンルにまたがる作品もありますが、1つ1つ分けて合計12のジャンルを紹介します。
①推理小説(ミステリー小説)
推理小説は、なんらかの事件・犯罪の合理的な解決へ向かう道すじを描いた物語とされています。
読者目線では、「謎・伏線回収・論理的解決のあるストーリーの小説」とまとめることもできます。
推理小説(ミステリー小説)の中には、難解な謎解きが魅力の本格ミステリ小説、日常の中に潜む謎に迫る日常ミステリ小説、さらに科学的な設定の謎を解くSFミステリ小説など細かなジャンルに分けることもできます。
推理小説(ミステリー小説)が有名な作家:伊坂幸太郎、坂木司、東野圭吾、柚月裕子
②青春小説
青春小説は若者の成長、仲間との友情、思春期の恋愛、家族関係、学校生活や将来の夢をテーマにした、若い世代特有の体験を描いた小説とされています。
青春小説のジャンルに当てはまるかは、作品の登場人物の「年齢の若さ」「心の若さ」「感性の豊かさ」、そしてストーリーの中での「特有の体験」の4つの条件が必要とされています。
青春小説が有名な作家:朝井リョウ、恩田陸、住野よる、瀬尾まいこ、森見登美彦
③恋愛小説
恋愛小説は名前の通り、登場人物同士の恋愛を描いた作品です。
18世紀頃のヨーロッパ、明治時代の日本で生まれた小説のジャンルとされていますが、文学の歴史を遡ると世界中で昔から人気のある小説です。
人気の恋愛小説には、「キュンキュンする3つの条件(1.三角関係とライバル/2.恋路を邪魔する壁/3.破滅パターン)」と「リアルな疑似体験ができるサクセスストーリー」が共通しています。
恋愛小説が有名な作家:有川浩、市川拓司、三浦しをん、冬野夜空
④SF小説(サイエンス・フィクション小説)
SF(サイエンス・フィクション)は、「科学的論理を基盤にしている。また、たとえ異星や異世界や超未来が舞台であっても、どこかで“現実”と繋がっている物語」と、大森望さんによって定義されています。
科学的技術の設定ではハードSF・時間SF・サイバーパンクなどに分けられ、舞台設定ではスペースオペラ・近未来もの・ディストピアSFと細かく分けられています。
SF小説(サイエンス・フィクション小説)が有名な作家:冲方丁、瀬名秀明、田中芳樹、筒井康隆
⑤ファンタジー小説(幻想小説)
ファンタジー小説は、「超自然的、幻想的、空想的な事象を主要な要素、主題や設定に用いるフィクション作品」と定義があります。
ファンタジー文学の研究者 梅内幸信さんは、4つの特徴(1.【世界観】魔法、超能力、超自然現象がある/2.【舞台設定】現実、異世界、平行世界/3.【種族】登場人物に空想の種族が登場/4.【価値観】現実とは違う価値観がある)で描かれる物語がファンタジー小説のジャンルに当てはまると解説されています。
ファンタジー小説の4つの特徴が全て当てはまるような「ファンタジーらしい作品」は、ハイ・ファンタジーと呼ばれています。
4つの特徴のいくつかが当てはまり、現実世界や現実に近い並行世界を描いた物語はロー・ファンタジーと呼ばれています。
ファンタジー小説(幻想小説)が有名な作家:荻原規子、上橋菜穂子、梨木香歩
⑥ホラー小説(怪奇小説、怪談小説)
ホラー小説は怪談小説とも呼ばれていて、読者に恐怖感を抱かせる作品です。
童話や昔話などの中世の時代では、神や心霊を恐怖の対象にしたゴシックホラー小説が主流でした。
現代では、人の心の闇を恐怖の対象としたサイコホラー小説、科学技術の暴走を描くSFホラー小説は映像化されるほど人気の作品もあります。
⑦ライトノベル
日本で生まれた小説のジャンルでもあるライトノベルは、幅広いジャンルが含まれている小説です。
ライトノベル評論家の榎本秋さんの解説では、「10代の青少年を主なターゲットにおく、読みやすく書かれた娯楽小説」がライトノベルの定義とされています。
さらに、登場人物のキャラクターや物語の舞台のイラストがありストーリーをイメージしやすい設定、登場人物同士の会話が多くキャラクターをイメージしやすい作品はライトノベルと呼ばれています。
⑧経済小説
経済小説は、経営者、中間管理職、サラリーマンの登場人物目線で企業のありかた、経済の仕組み、労働問題などを取り扱う作品です。
「大企業と中小企業の対立」や「経営者と現場の対立」から、理想の企業のあり方へと向かうストーリーが人気の小説のジャンルです。
⑨政治小説
政治小説は、政治や関係する出来事を取り上げた小説のジャンルです。
日本の文学の中では歴史が古く、明治時代には政治問題を描いた作品が世の中に広まっていました。
現代では身近な世の中の出来事から、政治問題を取り上げる作品が多いですね。
⑩歴史小説、時代小説
名前が似ている歴史小説と時代小説は、実は明らかな違いがあります。
歴史小説は歴史上に実在した人物を登場人物として、ほぼ史実に合ったストーリーを描いた作品。
また、その時代の中での空想上の物語が書かれたものとされています。
一方、時代小説は、歴史上に実在する時代を設定して、史実とは違った設定をする、架空の人物を登場させる作品です。
⑪児童小説
世界的に歴史のある児童小説は、児童文学とも呼ばれ、12歳程度までの児童を対象に書かれた作品です。
日本国内での定義は同様ですが、児童から10代の読者層の中には本を読むことが得意な方も少なくはなく、12歳から18歳までの年代向けのヤングアダルト小説を含むこともあります。
小説が書かれた時代背景や思想で近代文学と現代文学に分けられる
小説は書かれた時代によって、近代文学と現代文学の2つに分けられます。
日本で小説が書かれたのは、紫式部の時代にまでさかのぼりますが、私たちが今読んでいる小説が生まれたのは、明治時代とともに訪れた近代文学からとされています。
近代文学(戦前)と現代文学(戦後)
小説を含む日本の文学は、明治時代から戦時中の昭和時代までの作品を近代文学、戦後の昭和時代から出版される小説を現代文学と呼び、時代によって大まかに2つに分けられます。
近代文学は、時代背景や思想で啓蒙文学、写実主義文学とロマン主義文学、自然主義文学と反自然主義文学、新現実主義文学、モダニズム文学とプロレタリア文学、民主主義文学に分けられ、考え方の近い作家さんの集まる流派によってはさらに細かく分けられます。
写実主義文学
1885年の坪内逍遥の『小説神髄』、翌年1886年に二葉亭四迷の『小説総論』が出版されたことが「日本の近代文学のはじまり」ともいわれています。
壮大な舞台と主人公側の正義に偏りがちだった幕末から明治初期にかけての文学に対して、現実に近い舞台と登場人物の心の変化を細かく描く作品は写実主義文学と呼ばれるようになります。
ロマン主義文学
1890年代から1900年代にかけて、「作家が体験して思った自由な感性を作品にする」作風が流行します。
自然主義文学
1900年代からはロマン主義の作風とは反対に、現実をありのままに描く自然主義文学の作品の発表が続きます。
作家自身を映し出したような主人公の、心の内を深く探る作風は考え深く、少しだけ悲観的でもありました。
モダニズム文学
大正時代の終わりから昭和初期の1920年代半ばから1935年までの近代文学は、世界情勢の変化を大きく受けた作風が流行します。
1つは、過酷な労働環境や格差社会を比喩的な表現で描くモダニズム文学です。
モニタリズム文学の代表的な作家:川端康成
民主主義文学
戦時中の昭和時代には、西洋風の作風や政治を批判するストーリーの小説は厳しい規制を受けていました。
第二次大戦後の1945年からは、戦時中に出版できなかった作品の出版が相次ぎ、特に規制の厳しかったプロレタリア文学からは新しく社会への期待を描く民主主義文学が盛んに執筆されることになります。
小説のジャンルの4つの分け方のまとめ
今回は、小説の種類とジャンルを作風、長さ、内容、時代別での分け方をまとめさせていただきました。
近代文学の大衆文学が時代を経て、12のジャンルの小説を生み出しまし、最近の小説はSFミステリー小説、青春ファンタジー小説のようにジャンルの壁を越えた作品が人気を集めています。
今回分類した12のジャンル以外にも、冒険小説、教養小説、芸術小説というジャンルもあり。
SF小説の中に、ハードSF、スペースオペラといった細かなジャンルもあります。
ほとんどの小説が、いずれかのジャンルに分けられていますが、これから時代が進むにつれ、新しいジャンルはできるのでしょうか?
少し興味が湧きます。
もし、最新の小説のジャンルをご存知の方がいらっしゃるなら。
ぜひ教えてくださいね!
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