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『新参者』までの加賀恭一郎シリーズで描かれた主人公の変化と成長

加賀恭一郎の成長と変化

読書の豆知識


東野圭吾さんの人気ミステリー小説「加賀恭一郎」。

主人公の加賀恭一郎といえば、ドラマで演じられた阿部寛さんのイメージが強い敏腕刑事です。

ドラマでは『新参者』からの登場ですが、小説の加賀恭一郎は『新参者』までの7作品で少しずつ変化を重ね、主人公像を築いた人物でもあるんです。

今回は、加賀恭一郎の変化と成長を「刑事として」「人として」の2つの面で掘り下げさせていただきますね。

※今回のお話は【ネタバレ】があります。小説のストーリーを楽しみたい方は、末尾の紹介ページを先に読まれることをおすすめします。

刑事としての変化


主人公の加賀恭一郎は、駆け出しの新米警察官からの成長は描かれず、刑事として登場した当初から、高い能力と印象に残る存在感を持つ刑事として描かれています。

能力の成長というより工夫による変化

加賀恭一郎シリーズ2作目『眠りの森』では、既に警視庁捜査一課で殺人事件に携わっていた加賀恭一郎。

状況証拠を結びつけ、容疑者の証言の矛盾を突く鋭い推理は、この頃には身につけていました。

刑事としては、十分な捜査能力を身につけていた加賀恭一郎に「成長」というのは失礼なので、「変化」と表現することにします。

彼の捜査方針が変化を見せたのは、8作目『新参者』からです。


鋭い推理から、地域を知り尽くすまで

日本橋署に警部補として移動になった加賀恭一郎は、事件が起こる前から街の隅々にまで足を運び、出会った人と触れ合い、地域の特徴から人間関係までをくまなく把握するようになります。

従兄弟で同じ警察官の松宮脩平(まつみや しゅうへい)から、「街を自分のものにしている」と言葉が漏れるほど、地域の結びつきを知り尽くしていました。

彼の刑事としての変化には、「人としての成長」が深く関わっているのではないでしょうか?




人としての成長


刑事としては申し分のない加賀恭一郎にも、解決できない悩みはありました。

それは、幼い頃から続く親子関係です。

加賀恭一郎の抱えた親子関係の問題

加賀恭一郎が育った家庭環境は、円満とは言い難いものでした。

原因は彼自身ではなく、元刑事の父親 加賀隆正(かが たかまさ)にありました。

仕事一筋の加賀隆正は家に帰って家族と関わることはほとんどなく、シングル家庭の甥 松宮脩平の家族を助けていたこともあり、とても忙しい日々を過ごしていました。

加賀恭一郎の母親は、そんな暮らしに耐えられなくなったのか幼い彼を残して失踪してしまいます。

母親が失踪した原因は、父親 加賀隆正にあると考えた加賀恭一郎は、学生時代から必要最低限の会話しか成り立たないほど関係が悪化してしまいます。

もちろん、幼かった加賀恭一郎にできることはなく、彼の思う通り親子関係が悪化した原因は父親にあることは確かです。

ただ、大人になってから、歩み寄ろうとせず時間に任せていたのは、彼自身の選択でもあるでしょう。


親子関係修復のきっかけ

父親との関係に転機が訪れたのは、加賀恭一郎が刑事になった『眠りの森』からです。

留守番電話と手紙という、一方通行的なやり取りですが、少しずつ父親と言葉を交わすようになります。

そして、父親 加賀隆正が末期がんで入院した『赤い指』では、担当看護師の金森登紀子(かなもり ときこ)を通して将棋を指すまでになります。

ただ、やはり10数年の壁は大きく、最期を看取ることがないまま父親は旅立つことに……。

この頃の彼に大きな影響を与えた人物に、事件の容疑者として浮上した前原政恵(まえはら まさえ)という年配の女性がいました。

認知症を疑われていた彼女は、孫の直巳(なおみ)が起こした殺人事件を庇うため、息子夫婦によって殺人の罪を着せられそうになっていました。

息子夫婦に利用されてもなお、告発できる口を閉ざし、見過ごされてしまいそうな出来事を起こし、過ちに気がつかせようとする姿。

過ちに気がつかせようとする親という存在、咎めず気がつくまで待つ祖母という優しさを見た加賀恭一郎は、身近では見ることができなかった親の姿を重ね合わせたのは、物語終盤の行動が物語っています。




変化と成長が完成させた「新参者シリーズ」の主人公像


加賀恭一郎の父 隆正は、将棋で見せた彼に引けを取らない「数手先を読む推理」、彼よりも長い「刑事としての経験」を持つ人物でした。

シリーズ前半の『卒業』や『眠りの森』では、父 隆正のアドバイスで状況証拠のつながりを見つけるきっかけにもなっていました。

時間をかけ、「地域の関係を知り尽くす」捜査方法は、2000年代に30代後半になった彼の本来の捜査方法ではなかったはずです。

インターネットや携帯電話が普及していなかった、足で歩き目で見た情報が必要だった昭和の時代、父 隆正が現役だった頃の捜査方法のはずです。

『新参者』以前から持ち合わせていた、状況証拠と容疑者の証言を突く鋭い推理に、父 隆正の地域の関係を知り尽くす捜査方法が加わり、新参者シリーズの刑事 加賀恭一郎が完成されたといっても良いのではないでしょうか?




加賀恭一郎シリーズの紹介ページ


加賀恭一郎シリーズ)
1作目  『卒業』
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2作目  『眠りの森』
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3作目  どちらかが彼女を殺した
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4作目  『悪意』
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5作目  私が彼を殺した
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6作目  『嘘をもうひとつだけ』
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7作目  『赤い指』
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新参者シリーズ)
8作目  『新参者』
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9作目  麒麟の翼』
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10作目 祈りの幕が下りる時
11作目 『希望の糸』

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