「加賀恭一郎シリーズ」と「新参者シリーズ」の分岐点は7作目『赤い指』
刑事 加賀恭一郎が活躍する東野圭吾さんの原作小説は、10作品全てが「加賀恭一郎シリーズ」と呼ばれています。
一方で、阿部寛さん主演のドラマ・映画は「新参者シリーズ」と呼ばれることもあります。
今回は、「加賀恭一郎シリーズ」と「新参者シリーズ」の分岐点を主人公の成長と変化の目線で深掘りさせていただきますね。
※今回のお話は【ネタバレ】があります。小説のストーリーを楽しみたい方は、末尾の紹介ページを先に読まれることをおすすめします。
東野圭吾さんの名作ミステリー小説「加賀恭一郎シリーズ」とは?
加賀恭一郎シリーズの分岐点の前に、小説10作品の概要をまとめさせていただきます。
加賀恭一郎シリーズとは?
東野圭吾さんの「加賀恭一郎シリーズ」と呼ばれるのは、主人公の刑事 加賀恭一郎が活躍するミステリー小説10作品です。
『卒業』『眠りの森』『どちらかが彼女を殺した』『悪意』『私が彼を殺した』『嘘をもうひとつだけ』『赤い指』『新参者』『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』は、時系列通りに物語が進み、ファンの間では順番通りに読むことをお勧めされています。
また、2010年の連続テレビドラマで阿部寛さんが加賀恭一郎を演じたことで、『新参者』以降を「新参者シリーズ」と呼ぶこともあります。
敏腕刑事 加賀恭一郎
「加賀恭一郎シリーズ」の主人公 加賀恭一郎は、状況証拠と容疑者の証言の矛盾を突く鋭い推理力を持った敏腕刑事です。
ミステリー小説のシリーズ作品では、探偵役の技術的な成長が描かれた作品もありますが、加賀恭一郎は刑事として登場した『眠りの森』の時点で、冷静沈着で隙のない十分な推理力を持った主人公として描かれています。
『新参者』からが完成した加賀恭一郎のストーリー
事件を解決する刑事としては、十分な能力を備えて登場した加賀恭一郎ですが、シリーズ全体を通して少しずつ成長と変化を重ねています。
加賀恭一郎の成長と変化
加賀恭一郎は、慣れ親しんだ練馬警察署か『新参者』以降の舞台になる日本橋警察署に移動することになります。
日本橋警察署に移動したばかりの加賀恭一郎は、新しい捜査方法を取り入れています。
事件が起こる前から地域をくまなく歩き、商店の特徴から人のつながりまでを把握することで「地域の関係を知り尽くす」というものです。
父親との関係を克服した『赤い指』
「地域の関係を知り尽くす」捜査方法は、『新参者』の舞台設定の2010年代前半からみても「古い操作方法」のはずです。
インターネットやスマホ、防犯カメラが普及していない昭和の時代の捜査方法です。
彼があえて古い捜査方法に立ち戻った背景には、彼の父 加賀隆正との関係の克服にあったはずです。
加賀隆正は、学生時代の彼に事件解決のアドバイスをするほどの元刑事で、集められた状況証拠から「数手先を読む推理」の持ち主です。
さらに、定年退職まで警察官を勤め上げた経験を持ち合わせていました。
加賀恭一郎が父親から仕事のノウハウを得る機会は、ほとんどなかったのでしょう。
会話が成り立たないほど親子関係が崩壊していたことは、シリーズ前半に描かれています。
加賀恭一郎が父親との関係を克服したきっかけは、『新参者』の1つ前の作品『赤い指』です。
『赤い指』では、中学生の犯した犯罪を認知症が疑われていた祖母のせいにしようとする夫婦と、責任を逃れようとする少年が登場します。
少年の祖母は、自分を利用する息子夫婦、現実逃避する少年を咎めることも告発することもなく、ただただ待ち続けました。
過ちに気がつかせようとする親という存在、咎めず気がつくまで待つ祖母という優しさを間近で見た加賀恭一郎は、語ることはなく行動で父親との関係を克服することになります。
新たなスタートの『新参者』
『新参者』は、父親との関係を克服した加賀恭一郎の新たなスタートともいえるでしょう。
以前から持ち合わせていた、状況証拠と容疑者の証言を突く鋭い推理に、父 隆正の地域の関係を知り尽くす捜査方法を取り入れ、成長と変化を見せたことで、本当に隙のない主人公像が完成しました。
「加賀恭一郎シリーズ」と「新参者シリーズ」
改めて、主人公の成長と変化の目線でシリーズを分けるとしたら。
「加賀恭一郎シリーズ」と「新参者シリーズ」の分岐点は、シリーズ7作目『赤い指』に違いありません。
『赤い指』までが、表には出さない主人公の葛藤を描いた「加賀恭一郎シリーズ」。
『新参者』からは、完成した主人公像の活躍を描く「新参者シリーズ」と分けることはできないでしょうか?
加賀恭一郎シリーズの紹介ページ
加賀恭一郎シリーズ)
1作目 『卒業』
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2作目 『眠りの森』
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3作目 『どちらかが彼女を殺した』
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4作目 『悪意』
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5作目 『私が彼を殺した』
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6作目 『嘘をもうひとつだけ』
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7作目 『赤い指』
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