ハリーポッターシリーズの逆転時計は現在を変えていなかった
先日、ハリーポッターシリーズが図書館から撤去された話題を書いていたら、どうしても考察記事を書きたくなってしまいました。
そこで、『ハリーポッターとアズカバンの囚人』大人も楽しめて、子どもに読ませてあげたいハリー・ポッターシリーズ ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 - 本当に本が読みたくなる読書のブログの名場面、逆転時計を使ってハリーとハーマイオニーがシリウス・ブラックを救出するお話を取り上げてみます。
- ハリーポッターシリーズの逆転時計は現在を変えていなかった
改めて逆転時計(タイムターナー)が使われた名シーンを振り返る
逆転時計(タイムターナー)で過去に戻り大活躍するのは、ハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャー。
過去の自分たちと対面はしていませんが、同じ場所にいるシーンがあります。
わかりやすいように、過去に戻る方をハリー、ハーマイオニー。
過去にいる方を「ハリー」「ハーマイオニー」としましょう。
①ホグワーツの医務室で数時間前へタイムスリップ
吸魂鬼の襲撃から助かったハリーたち3人は、ホグワーツの医務室に横たわっていました。
同じ場所に倒れていた、ハリーの名付け親シリウス・ブラックは身柄を捕えられ魔法省に引き渡される時間が迫ります。
医務室を訪れたダンブルドア校長にシリウスの無実を訴えるハリーとハーマイオニー。
ダンブルドア校長は、今の時点でシリウスの無実を証明できないと諭す一方でハリーたちに提案をします。
それは、ハーマイオニーの持つ逆転時計(タイムターナー)で過去に戻りシリウスを救出するということ。
「うまくいけば2つの命が救われる」と意味深に話すダンブルドアは、逆転時計の注意点と制限時間を手短に説明します。
重症でベッドから動けないロンを除く、ハリーとハーマイオニーが過去へと向かいます。
「今はー真夜中の五分前じゃ。ミス・グレンジャー、三回ひっくり返せばよいじゃろう。幸運を祈る」
ダンブルドア校長は真夜中の5分前、つまり23:55と告げています。
逆転時計を3回ひっくり返すとは、合計3時間前に戻るということ。
②ハグリッドの小屋でヒッポグリフを救う
過去へ向かった2人は、ホグワーツの裏庭でひとまずハグリッドの小屋へ向かうことを決めました。
ここで、ハーマイオニーは時間を確認します。
「いまが、その三時間前よ」
20:55から2人の行動が始まったことが確認できます。
ハグリッドの小屋では、魔法大臣コーネリウス・ファッジと魔法省の処刑人マクネアがヒッポグリフのバッグピークの死刑執行を宣告しに訪れます。
ファッジ大臣とマクネアはもちろん、ハグリッドを訪れていた「ハリー」「ロン」「ハーマイオニー」にも見つからないようにバッグピークを連れ出し森に隠すハリーとハーマイオニー。
小屋を出てからバッグピークが姿を消したことに気がついたマクネアは、処刑用の斧を振り下ろします。
斧は近くにあった柵を2つに割り、「ドサッ」という音が響きます。
「ハリー」「ロン」「ハーマイオニー」の聞いた音は、バッグピークが処刑される音ではなかったことにハリーとハーマイオニーは気がつきます。
③暴れ柳の側で狼男になったルーピン先生
この場面では、時間を確認する会話はありません。
バッグピークを助け出したハリーとハーマイオニーは、「ピーター・ペティグリュー」を追い、黒い大きな犬に「ロン」がさらわれた暴れ柳の近くに身を伏せていました。
「ハリー」「ロン」「ハーマイオニー」の3人は、暴れ柳の根本にあるトンネルを抜けた先の叫びの屋敷で「シリウス」と向き合っているはず。
暴れ柳のトンネルには、「ハリー」たち3人を見張っていたとき「シリウス」の名前を目にした「リーマス・ルーピン」が現れます。
さらに後を追うように、「セブルス・スネイプ」が杖を構えて叫びの屋敷へ向かいました。
事がうまくいくように提案をするハリーのアイデアを、論理的に諭すハーマイオニー。
そして、叫びの屋敷で「シリウス」との誤解が解けた「ハリー」たち3人と気絶させられた「スネイプ」、そして「ルーピン」が現れます。
ここで、先ほどハリーたちが出くわしたアクシデントが起こります。
満月を見て狼男になった「ルーピン」、隙をついて逃げる「ピーター」。
我を失った「ルーピン」が「ハリー」に襲いかかるのを、大きな黒い犬になった「シリウス」が間に入り止める。
狼男になった「ルーピン」と「シリウス」はもみ合いながら崖の下に姿を消し、後を追うように「ハリー」が駆け出してゆきます………
④吸魂鬼の襲撃から自分たちを救う
空から星が消え、深い闇と冷たい空気とともに現れた吸魂鬼ディメンター。
傷ついた「シリウス」、守護霊の呪文が未完成の「ハリー」はなすすべもなく幸せを吸い取られてゆく。
湖の対岸から、ただ見ていることしかできないハリーとハーマイオニー。
ハリーは、ある希望にかけていました。
勇敢な父ジェームズ・ポッターが駆けつけてくれるはず。
それは、先ほど失われてゆく意識の中にはっきりと映し出された父の姿。
ですが、父ジェームズは現れることなく「シリウス」は吸魂鬼のキスで魂を吸い取られる間際。
思い立ったハリーは杖を構え、名付け親シリウス・ブラックと暮らす希望を思い呪文を叫ぶ。
エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ来たれ)
湖を埋め尽くしていた吸魂鬼ディメンターは、光の雄鹿のパトローナムに追い散らされ退散してゆきます。
ふと、自分(「ハリー」)と目が合ったハリー。
意識を失う「ハリー」と「シリウス」には、近くことはできないハリーとハーマイオニーは湖を後にしました。
ここで、ハーマイオニーは時間を確認。
「ダンブルドアが病棟のドアに鍵をかけるまで、あと四十五分くらいあるわ」
と、23:55から45分前の23:10とハリーに告げています。
⑤禁じられた森に隠れていたヒッポグリフと共に飛び立つ
ダンブルドア校長が指定した制限時間が迫りつつあります。
シリウスの囚われている西塔のフリットウィック先生の事務所へ向かい、助け出す術は…
学校に戻り箒を取りに行く時間はありません。
限られた時間の中で、ハーマイオニーの頭脳が導き出した答えはヒッポグリフのバッグピークに乗り西塔へ飛んでゆくことでした。
湖から禁じられた森に戻るハリーとハーマイオニー。
ハグリッドに教わった作法でバッグピークをなだめ、背中に乗る2人は飛び立ちます。
⑥(①)ホグワーツ城西塔に囚われたシリウス・ブラックを救出
無実の罪で囚われたシリウスは、西塔の窓から空の星を眺めていました。
世の中に無実の潔白を証明できなくても、親友ジェームズの息子ハリーには伝わっている。
父ジェームズの親友シリウスは裏切り者ではない。
これからのハリーを見守ることはできなくても、伝わっただけでもう悔いはないのかもしれない。
ディメンターが去った星空から、月の光を反射した影がこちらへ向かう。
ヒッポグリフと華奢な魔法使いが2人。
死刑執行が訪れる前に、シリウスを塔から連れ出すことに成功したハリーとハーマイオニー。
別れの言葉を交わす時間は、お互い持ち合わせておらず、それぞれが自由へと、また日常へと戻っていった。
シリウスを救出した後、急いで医務室に戻るハリーとハーマイオニー。
「あと三分よ、ハリー」
ダンブルドアが医務室に鍵をかける3分前の23:52ということがわかります。
実際に変わったのは、現在より先
改めて読み返してみると、逆転時計(タイムターナー)が影響していた場面は3つあります。
②ヒッポグリフ バッグピークを助け出す
④吸魂鬼の襲撃を撃退
⑥シリウスの逃亡
この中で、実際に起こったことが変わっていないのは②④。
ハリーとハーマイオニーが過去に旅立つ時間と同じ時系列にあったのは⑥です。
未知の過去〜バッグピークの命、吸魂鬼が撃退
1つ目は、②ヒッポグリフ バッグピークを助け出したエピソードです。
過去の出来事では、魔法大臣のファッジと処刑人マクネアがバッグピークの側へ向かうときには、「ハリー」「ロン」「ハーマイオニー」の3人はハグリッドの小屋を離れています。
事実として知っているのは、「ドサッ」という音だけです。
逆転時計を使用して過去へ訪れたハリーとハーマイオニーは、積極的にバッグピークの処刑を変えようとします。
その結果、バッグピークは処刑されることはなく、「ドサッ」という音は処刑人マクネアがカボチャを切る音だったことになります。
つまり、ハリーとハーマイオニーが逆転時計で過去に戻る前でもバッグピークが処刑されてしまったのか、生き残っているのかはわからないことになります。
吸魂鬼の襲撃を撃退した場面も同じで、過去の「ハリー」「シリウス」は吸魂鬼の襲撃から生き延びているのは事実です。
未知の現在〜シリウスの逃亡
逆転時計で過去に戻った結果、シリウスは魔法省に引き渡されることなく逃亡に成功します。
時間軸では、シリウスの救出は先ほどの① ホグワーツの医務室で数時間前へタイムスリップする前後。
こちらは、まだ誰も知らない現在のことになります。
シリウス救出は空白の42分に行われた
シリウスの救出は、過去の「ハリー」たち3人が医務室に運ばれて寝ていた23:10〜23:52までに行われました。
「ハリー」は吸魂鬼の襲撃で気絶、「ハーマイオニー」も狼男になったルーピン先生に襲われて気絶、「ロン」は足の骨を骨折していて重症。
3人は、意識がなかったかあっても誰とも会っていない「空白の42分」を過ごしていました。
この間に起きた事実は3つ。
ダンブルドアがシリウスをフリットウィック先生の事務所がある西の塔に拘束したこと。
スネイプが魔法省の役人に通報に向かったこと。
魔法省のファッジ大臣と処刑人マクネアが吸魂鬼を連れて西の塔へ向かったことがあります。
つまり、シリウスは拘束したダンブルドアを除いて「誰とも会っていない」事実が証明されたいます。
もし都合よく過去を変えられるのだとしたら
逆転時計(タイムターナー)で過去を都合よく変えられない理由に、過去の自分と顔を合わせてはいけないとあります。
注意事項をよく知っていたハーマイオニーは、飛び出していきたいハリーを諌めていました。
もし強引に過去を変えられるのなら、③暴れ柳の側で狼男になったルーピン先生が暴れたせいで、「ピーター」が逃げてしまう場面でしょう。
「ピーター」はシリウスの無実を証明する真犯人でもあります。
「ルーピン」先生が狼男になるのは止められなかったとしても、その場面でタイムスリップしていたハリーとハーマイオニーが覆面を被って飛び出していったとしたら………
このシーンでは、それぞれの立場が非常に危うい関係で成り立っていました。
「ハリー」「ロン」「ハーマイオニー」は、凶悪な殺人犯と思っていた「シリウス」を「ピーター」という真犯人の存在が明かされたことで無実の罪で捕まった人と信じることができました。
「ルーピン」先生も同じ立場です。
「シリウス」自身は複雑で、「ピーター」を真犯人として追っていましたが、自分が魔法省に指名手配されています。
気絶して何もできない「スネイプ」は、「シリウス」と「ルーピン」が共犯と考えていました。
この場面で、覆面をした正体不明の2人組が現れると味方と思ってくれる立場の人はいないでしょう。
「ハリー」「ロン」「ハーマイオニー」「ルーピン」には、「ピーター」の仲間の死喰い人、「シリウス」を追う魔法省の追っ手、実はやはり「シリウス」が犯人で協力に来た死喰い人。
「シリウス」の立場でも、魔法省の追っ手か死喰い人と思われます。
「スネイプ」には、「シリウス」「ルーピン」に協力する死喰い人と思われることでしょう。
その結果、起こることはこうなります。
・上手く「ピーター」を捕まえて逃げ出せる
・「ハリー」「ハーマイオニー」「シリウス」に不審人物と間違われ攻撃される
・狼男になった「ルーピン」先生に襲われる
・「ハリー」「ハーマイオニー」「ロン」に死喰い人と思われ「シリウス」の立場が危うくなる
どうしてもリスクの方が大きくなります。
ハリーたちが失敗していてもシリウスは助かっていた!?
先ほどの「空白の42分」で、ハリーとハーマイオニーがシリウス救出に失敗していたとしたらどうでしょう?
西の塔に拘束されたシリウスは、その後誰とも会っていません。
もしかするとシリウスを拘束したダンブルドア自身が、時間になると逃げられるように細工をしていてもおかしくはありません。
シリウス逃亡の理由も、ダンブルドアの説明で「何らかの闇の魔術を使った」とされています。
冷静さを欠いていたスネイプは、ハリーを疑いましたが、アリバイもなく、細工をする技術のあるダンブルドアを誰も疑ってはいません。
ダンブルドア自身がシリウスを逃していても、スネイプはハリーを疑い、ファッジ大臣に呆れられ、ダンブルドアが「何らかの闇の魔術を使った」と結論を出す場面は変わらないはずです。
逆転時計(タイムターナー)は過去を変えることはできない
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人の1番の見せ場でもある、逆転時計(タイムターナー)で過去に戻る場面。
ですが、逆転時計は過去を変えて都合のいい未来にする便利な道具ではありませんでした。
理由は、過去の自分と顔を合わせてはいけないという制約にあります。
そのため変えたい場面では、どうしてか過去の自分が関わっていて都合のいいように手を加えることはできないようになっています。
逆転時計でできることは、知らなかった未知の過去を知ること。
そして、実際に変えることができるのは今まさに起ころうとしている現在から未来にかけての出来事でした。
だからこそ、逆転時計でのタイムスリップが物語の見せ場になっているのかもしれませんね。