ハリー・ポッターシリーズで考える移民問題
イギリスで生まれたハリー・ポッターシリーズは、世界的に読み継がれる作品。
児童文学の世界を飛び出し、映画化やアトラクションの世界で世界中に広まりました。
ハリー・ポッターは、著者のJ・K・ローリングさんの体験からいくつかのメッセージが込められています。
今回は、作品の魔法界の中で主人公ハリー・ポッターと悪役ヴォルデモート卿が対立する元になった「血統」の問題とイギリスがEU離脱へと向かうキッカケになった移民問題について考えてみます。
魔法界での血統〜純血と半純血とマグル生まれ
ハリーポッターの中では、魔法使いの両親から生まれた「純血」、魔法使いと普通の人間「マグル」との間に生まれた「半純血」、普通の人間マグルの両親から生まれた「マグル生まれ」の3つの血筋についての話題あります。
魔法を使える能力「魔法力」は優性遺伝するといわれており、突然変異でマグルの中にも「魔法力」のある子どもが生まれることも珍しくはありません。
純血
純血は魔法使いの両親から生まれた血統です。
純血の中でも、代々魔法使いが生まれる家系は由緒ある家系とされています。
中でも聖28一族と呼ばれる古くからの家系があり、ハリー・ポッターの祖先ペベレル家、親友ロン・ウィーズリーのウィーズリー家、シリウス・ブラックのブラック家、ドラコ・マルフォイのマルフォイ家、ヴォルデモート卿の祖先ゴーント家(ペベレル家)の子孫がこの家系です。
純血の中にも、差別があり半純血の家系やマグル生まれと結婚して子どもを生む魔法使いは「血を裏切る者」と呼ばれてしまいます。
半純血(half-blood)
先ほど、ハリー・ポッターの祖先がペベレル家、ヴォルデモート卿の祖先をゴーント家と紹介しました。
主人公と悪役の2人、実は純血ではありません。
ハリー・ポッターもヴォルデモート卿も、母親はマグル生まれの混血「半純血」にあたります。
半純血には2つの種類があり、「純血の魔法族とマグル生まれの魔法族の間に生まれた魔法族」、「純血の魔法族と(魔力を持たない)マグルの間に生まれた魔法族」に分けられます。
どちらも物語上の学校生活や仕事で差別を受けることはありませんが、ハリー・ポッターシリーズ最終話『ハリー・ポッターと死の秘宝』ではヴォルデモート卿側の勢力となった魔法省(政府)に摘発されることもありました。
「純血の魔法族と(魔力を持たない)マグルの間に生まれた魔法族」は、家系の証明がなければ「違法に杖を奪った」として強引に刑務所に送られる場面にハリーたちは出くわすことになります。
マグル生まれ
普通の人間マグルの両親から生まれた「マグル生まれ」は、物語の中でも差別されることは珍しくはありません。
純血の家系に生まれた純血主義の魔法使いからは、「穢れた血 (mud-blood)」という差別用語を言われることもあります。
魔法力が優性遺伝することが明らかになっているハリー・ポッターシリーズの設定では、普通の人間マグルの両親から魔法使いが生まれることは珍しくはありません。
中には、ハーマイオニー・グレンジャーのように優秀な魔法使いも現れています。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』では、マグル生まれの魔法使いは初めから不利な裁判で裁かれ刑務所に収容されています。
さらに、人質の中から暴行を加える対象を選ぶときにも、マグル生まれから選ばれやすい場面が描かれています。
純血主義思想と無差別主義思想
「純血」「半純血」「マグル生まれ」の3つの血筋を巡って、大きく2つの主張があり。
主人公ハリー・ポッター側と、悪役ヴォルデモート卿側の対立の元になる思想でもあります。
純血主義思想
純血主義は、サラザール・スリザリンによって提唱された「純血こそが魔法使いに相応しく」「半純血やマグル生まれを支配する権利がある」という思想。
この思想の元には、少数の魔法使いが大多数のマグルから迫害を受けた歴史があります。
物語中の時代でも、魔法使いはマグルの社会からは隠れて暮らしている姿が描かれています。
純血の魔法使いの中には、魔法界に入ってくるマグルに対する恐怖心が純血主義思想に傾く元になるのかもしれません。
ヴォルデモート卿が繰り返し唱える選民思想のような極端な考えは、彼らの勢力が政権を奪った際に「半純血やマグル生まれを隔離する」という形で実行されます。
無差別主義思想
純血主義思想に対して、「血筋で分け隔てなく暮らそう」とする考え方が無差別主義思想。
物語中最高の魔法使いといわれ、教育界から政治の舞台で影響力のあるアルバス・ダンブルドアが提唱し、ホグワーツ魔法魔術学校で実行されました。
ダンブルドアから無差別主義思想を教わった登場人物の中には、魔法省で政治の舞台に身を置く人物も珍しくはありません。
イギリスが抱える移民問題
ハリー・ポッターの舞台でもあるイギリスは、2010年頃から移民問題を抱え、2018年にはEUを離脱する政策を取ることになりました。
元々、多民族国家のイギリスは移民に対して社会保障や労働の機会を平等に与える「移民に寛容な国」でした。
ところが、EU加盟国が東欧諸国へ広がり続けたことを背景に「2004年~2015年までの11年間で100万人から300万人へと3倍に増えた」【ゼロからわかる】イギリス国民はなぜ「EU離脱」を決めたのか(笠原 敏彦) | 現代ビジネス | 講談社(3/6)ことが原因ともいわれています。
イギリスの人口は約6400万人(2018年)、同じ年の移民増加は36万人と発表されています。
社会保障の負担増加、労働の機会の奪い合い、住居の確保の問題が積み重なり、移民受け入れを拒むEU離脱へと国民感情は傾くことになります。
元々、移民受け入れに寛容であったイギリスで起こった出来事は、私たちの暮らす日本では、さらに深刻な問題になりかねません。
日本も他人事ではない移民問題
こうしてお話をしている私にも、自覚はありませんが日本は世界的にも珍しい単一民族国家といわれています(アイヌ民族の方ももちろん在住しています)。
都市部では珍しくはありませんが、肌の色や髪の色が違うハーフの方は外国人扱いを受けることも多いことでしょう。
そして、2019年からいよいよ外国人労働者の受け入れ拡大へと世の中は変わりつつあります。
日本国籍のあるハーフの方や、外国人の両親と共に暮らし日本で生まれ方でさえ、差別を受ける日本の社会。
今後、イギリスと同じ問題に向き合うことになると、国民はどう思うのでしょう。
ハリー・ポッターの悪役ヴォルデモート卿側のような、極端な日本人主義へ傾いてしまうのでしょうか?
私はどちらかというと、国籍があって仕事をして税金を納めている方を差別する理由はないと思います。
それでも、社会保障が増え、仕事で得られる収入が価格競争のようになってしまったら………どう思うかは、今ではわかりません。
ハリー・ポッターの純血主義・無差別主義と移民問題
今回は、イギリスの作家J・K・ローリングさんのハリー・ポッターの物語で描かれた魔法界の純血主義・無差別主義を取り上げてみました。
作品の舞台がイギリスということもあり、実は移民問題のメッセージが込められていたのでは?と思い、現実の社会と照らし合わせてみましたよ。
EU離脱へと国民感情が傾いたイギリスの問題だけではなく、外国人労働者の受け入れ拡大を決めた日本でも起こりそうな問題でもあります。
ハリー・ポッターシリーズに込められたメッセージ、私たちはどのように受け取るのでしょうか………
ハリー・ポッターシリーズのまとめはこちら↓
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ハリー・ポッターシリーズの考察記事はこちら↓
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