集英社オレンジ文庫 ノベル大賞のお話
ノンジャンル小説を募集する新人文学賞特集、第2回はライト文芸を発掘する集英社オレンジ文庫ノベル大賞を取り上げてみました。
過去3年間の受賞作品と、三浦しをんさんをはじめとした選考委員の書評をもとにノベル大賞に選ばれる小説の作風にせまってみますね。
集英社オレンジ文庫 ノベル大賞とは
集英社が主催する公募文学賞です。
幅広く楽しめるエンターテインメント作品であれば、どんなジャンルでもOK!
恋愛、ファンタジー、コメディ、ミステリ、ホラー、SF、etc……。この賞で才能を開花させ、
ベストセラー作家の仲間入りを目指してみませんか?
出典: 集英社 ― SHUEISHA ―
集英社オレンジ文庫 ノベル大賞は、出版大手の集英社が幅広いエンターテイメント小説を募集する新人文学賞です。
対象と募集要項
対象:幅広く楽しめるエンターテインメント作品(ジャンルは問わず)
主催: 株式会社集英社 一ツ橋文芸教育振興会
選考:桑原水菜、今野緒雪、三浦しをん、吉田玲子
締切:2022年1月10日
発表:2022年8月 オレンジ文庫 公式サイト、チラシ誌上
原稿規定:400字詰め原稿用紙換算100枚~400枚
賞金:大賞 正賞、副賞300万円/準大賞 正賞、副賞100万円/佳作 正賞、副賞50万円
書籍化:文庫化、出版後の印税
公式サイト: 集英社 ― SHUEISHA ―
募集している作品は、原稿用紙換算100枚~400枚で中編小説から長編小説です。
1作品のみ選ばれる大賞と準大賞に加え、佳作の作品にも文庫化のチャンスがあります。
最終選考の選考委員は4名で、それぞれの方の作風も全く違います。
桑原水菜さんは、歴史長編ライトノベル『炎の蜃気楼(ほのおのミラージュ)』でノベル大賞を受賞しライトノベルの原点とされている作家さんです。
蘇った戦国武将の亡霊をあの世へと送り返す不良少年 仰木高耶の活躍する『炎の蜃気楼』は、歴史好きの女性「歴女」が流行する社会現象を巻き起こしました。
今野緒雪さんも、ライトノベル界の巨匠と呼ばれるほど知名度のある作家さんです。
人気作品『マリア様がみてる』シリーズは、シリーズ累計560万部を超え、アニメや漫画も人気が衰えることはありません。
三浦しをんさんは、『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、『舟を編む』で本屋大賞を受賞され、2019年に『愛なき世界』が本屋大賞にノミネートされたことで再び注目が集まった作家さんです。
『愛なき世界』の植物学研究者をめざす本村紗英のように没頭する世界のある登場人物、恋愛小説集『きみはポラリス』では特徴的な人間関係が描かれています。
多くを語らない登場人物の心の奥底を、別の登場人物目線で見つめる作風が特徴的な作家さんでしょう。
吉田玲子さんは『ハウルの動く城』や『猫の恩返し』を手掛けたアニメ脚本家の方です。
『ドラゴンボール』でデビューされた後は、集英社の人気少年漫画『ジャンプ』の連載作品のアニメ化には必ず携わっている方です。
発表
作品募集から受賞作品発表までは、5つの選考があります。
一次選考結果発表
2022年4月
二次選考結果発表
2022年5月
三次選考結果発表
2022年6月
四次選考結果発表
2022年7月
「ノベル大賞」受賞作品、最終候補作品発表
2022年8月
出典: 集英社 ― SHUEISHA ―
毎年1月に締め切られたあとは、3カ月間の下読み期間を経て1カ月ごとに受賞作品が絞り込まれてゆきます。
集英社オレンジ文庫 ノベル大賞過去の受賞作品
ノベル大賞は第○○回とせず発表された年で区切られていました。
過去3年間の受賞作品は、大賞1作品と佳作2作品。
ノンジャンル3作品、恋愛小説2作品、ファンタジー小説2作品、SFミステリ小説1作品、時代小説1作品と幅広い世界観の作品が受賞されています。
内容を紹介させていただくのは、大賞作品だけに絞り、佳作作品は簡単なあらすじだけとさせてただきますね。
2019年
佳作 『愛を綴る』森りん
愛を綴る (集英社オレンジ文庫)
佳作 『流転の貴妃、或いは塞外の女王』喜咲冬子
流転の貴妃 或いは塞外の女王 (集英社オレンジ文庫)
猫田佐文さんの『ひきこもりを家から出す方法』、主人公は中学時代の人間関係から引きこもりになり、10年が経った影山俊治。
引きこもり支援団体から派遣されたのは、素敵なメイドさんとシスターだった。
人との関わり、取り組んだことで得られる成果を積み重ねながら内から外へ目線が広がる影山を応援したくなる物語でした。
佳作の『愛を綴る』は、中世のヨーロッパを思わせる世界が舞台の身分を超えた純愛小説です。
『流転の貴妃、或いは塞外の女王』は、中華の王族に嫁いだ女性 柴紅玉が拐われた中国辺境の部族社会で新しい世の中を作り上げるために立ち上がる物語でした。
2018年
大賞 『応挙の虎、古井戸の月』→『うばたまの 墨色江戸画帖』佐倉ユミ
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佳作 『さよなら、Mr.ナイトメア』→『ナイトメアはもう見ない 夢視捜査官と顔のない男』水守糸子
ナイトメアはもう見ない 夢視捜査官と顔のない男 (集英社オレンジ文庫)
佳作 『ナヅルとハルヒヤ 花は煙る、鳥は鳴かない』乃村波緒
ナヅルとハルヒヤ 花は煙る、鳥は鳴かない (集英社オレンジ文庫)
佐倉ユミさんの受賞作『応挙の虎、古井戸の月』から改題し出版された『うばたまの 墨色江戸画帖』。
才能の輝きを見出された絵師の少年 青井東仙は、師匠の元で何不自由ない環境を与えられ、いつしか有り余る才能に振り回され堕落した生活を送っていた。
次第に絵師の本分も忘れた東仙は、師匠から破門を言い渡されることに。
江戸の下町に行き着いた彼は、仕事も身分も超えた下町人情に触れ、創作意欲が溢れていくことに…。
遠いノスタルジックな江戸情緒が、どこか令和の現代と重なる世界観でしたよ。
佳作の『ナイトメアはもう見ない 夢視捜査官と顔のない男』は、他人の夢から記憶を読み取る女性捜査員が失踪した先輩の謎に迫る物語。
『ナヅルとハルヒヤ 花は煙る、鳥は鳴かない』は、身体に害のある「花煙草」の技術を身に着けて故郷マキヨノに帰ってきたナヅル。
故郷で家族と暮らしていたハルヒヤは、花煙草が禁止になった世の中で複雑な思いでナヅルと接することに…。
2017年
佳作 『あやしバイオリン工房へようこそ』奥乃桜子
あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)
佳作 『今夜、2つのテレフォンの前。』時本紗羽
今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)
髙森美由紀さんの『花木荘のひとびと』の舞台は、岩手県盛岡市の木造2階建てアパート花木荘。
高齢の毒舌大家トミ、汚部屋で暮らす買い物依存症のOL志村こはく、不仲な家族と離れて暮らす時計職人 浅野翔、人間関係のトラブルが耐えない美容師 上杉昇平。
成人も自立もしていても、どこか大人ではない3人が抱えていたのは、埋められなかった隙間。
相手の生活の中に踏み入れて、お互いを知ることで埋められる隙間もあるのかもしれない。
毒舌大家トミさんのツッコミで、シリアスな問題がコミカルに表現された作品でした。
佳作の『あやしバイオリン工房へようこそ』は、バイオリニストの夢を断たれ楽器工房で働くことになった女性と美男子のバイオリンの精の物語。
『今夜、2つのテレフォンの前。』は、時を超えた女子高校生と高校教師が電話だけでつながる、恋愛小説でした。
集英社オレンジ文庫 ノベル大賞の特徴
・世界観豊かなライト文芸作品の発掘
・毎年3~4作品が受賞
・過去3年間の受賞作品は幅広い世界観の作品が受賞し9作品中3作品はノンジャンル小説
・受賞作品の作風は思わず興味を引き寄せられる世界観
ファンタジーからSFまで、世界観豊かなライト文芸作家さんを見つけてくれる文学賞が集英社オレンジ文庫 ノベル大賞です。
毎年3~4作品が受賞しており、過去3年間では大賞1作品と佳作2作品が選ばれています。
受賞作品の種類は、ノンジャンル3作品、恋愛小説2作品、ファンタジー小説2作品、SFミステリ小説1作品、時代小説1作品と幅広い種類でした。
『花木荘のひとびと』のように、人間らしさが滲み出るリアルな世界観の作品が選ばれることもあれば、『ナイトメアはもう見ない 夢視捜査官と顔のない男』のように独特の設定がある舞台設定の作品も選ばれています。
選考委員の三浦しをんさんのように、何かに没頭する「自分の世界を持つ登場人物」が活躍する『あやしバイオリン工房へようこそ』など、登場人物に注目した作品も選ばれています。
受賞作品に共通するのは「思わず興味を引き寄せられる世界観」、編集者の方目線なら「面白さ」が際立つ作品ということなのでしょうか。
細かな世界を描けるかが選ばれるポイントなのかもしれませんね。
集英社オレンジ文庫 ノベル大賞のまとめ
大賞と準大賞だけではなく、佳作の作品にも書籍化のチャンスがある集英社オレンジ文庫ノベル大賞。
ライト文芸と呼ばれる登場人物の細かな設定の作品を募集しています。
選考委員には人気アニメーターの方もおられ、想像したキャラクターの個性を余すことなく見てくれるはずです。
興味を引き寄せられるような世界観を描いた作家さんは、挑戦してみてはいかがでしょうか?