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アルスラーン戦記完結巻までの読書感想文

アルスラーン戦記シリーズの結末に思う

アルスラーン戦記の読書感想文


アルスラーン戦記の、本当の感想文を書いてみた。

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前書き


アルスラーン戦記シリーズを再読しみると、最初に読み終わった時とは少し違う感想を抱いたので本の紹介とは別に書き留めておきたくなりました。
シリーズを読んだことのある方はご存知のように、1986年に始まった物語は、2017年に完結巻が出版されるまで31年間も続いた長編ファンタジー小説です。
アルスラーン戦記の結末は、賛否両論よりも両極にファンの意見が分かれているとされています。
SNSや検索では、アルスラーン戦記の関連キーワードに「ひどい」「バッドエンド」「最悪の結末」のようなネガティブな用語が現れます。
私が物心ついた時には既に第一部を終えていて、ある程度世の中のことを経験してから完結巻を読んだ当時、私も同じようなネガティブな気持ちを抱いたものです。
あらためて再読した今は、ネガティブな印象よりもストーリーの結末と登場人物の最期に納得している自分がいます。


アルスラーン戦記の結末が「ひどい」と評価される3つの理由

アルスラーン戦記の結末がひどいといわれる理由


アルスラーン戦記の結末がネガティブな評価を受ける理由は、大きく3つあります。
これは、まとめサイト読書メーターのレビューでほとんど共通しています。

・救いのない結末
・登場人物の最期
・読み手と書き手の描いた結末

救いのない結末

アルスラーン戦記の結末は、初めて読む方にとってはバッドエンドです。
ネガティブな意見で最も多く見かけるのは、ストーリーの締めくくりです。
物語のクライマックスで主人公アルスラーンは、恐怖支配を目論む蛇王ザッハークと同士討ちになり命を落としてしまいます。
国の重要人物の多くが失われ、生き残った者も友好国シンドゥラへ避難する事態になったパルスはアルスラーンの死後50年にわたり指導者不在の混乱の時代を迎えることに……。


登場人物の最期

戦乱の世の中が舞台の物心ですので、軍人も民間人も命を落とすシーンが描かれるのは当たり前のことです。
ストーリーの終盤では、アルスラーン側と対立する蛇王ザッハークとの勢力の争いが描かれ、アルスラーンを慕う「十六翼将」と呼ばれる登場人物で生き残った者はわずか3名。
特に王太子アルスラーンに初めて仕えた忠臣のダリューン、個性的な登場人物の中でも良識人で円満な家庭もあるキシュワード、豪快な酒豪で失敗談も豊富な武将クバード、クールなイケメンのゾット族の族長メルレイン、自然を愛し狼とともに戦場に立つイスファーン、ルシタニア系パルス人の武将パラフーダの6人とアルスラーン本人は蛇王ザッハークとの「最後の戦い」のわずかな間に命を落とします。
またアルスラーンの宿敵で悲劇的な過去を持つパルス王族のヒルメスアルスラーンの母で元王妃タハミーネもこの戦いで命を落とします。
わずか40〜50ページの間に、主人公側と関係者9人と敵側の全員が最期を迎える死亡シーンが淡々と描かれる展開を受け入れられないファンの方も多かったことでしょう。


読み手と書き手の描いた結末

物語の中で起こった事実だけをまとめると、主人公アルスラーンは夢半ばで倒れ、思い描いたパルスの未来は混乱の50年という悲惨な時代を迎えています。
アルスラーンを信じ命を預けた登場人物の多くが命を失い、そのほとんどが物語終盤の『アルスラーン戦記16 天蓋無限』で次々と姿を消す……。
考察サイトやレビューでは、長年の読み手のファンが思い描いた結末と書き手の田中芳樹さんの描いた結末の差が大き過ぎたともいわれています。



ファンの1人として、アルスラーン戦記は名作だと思う3つの理由

アルスラーン戦記は名作といわれる理由

アルスラーン戦記の結末はファンが思い描いたものとは違うのでしょうか?
事実、そうなのかもしれません。
私も最初に『アルスラーン戦記16 天蓋無限』を読み進めた時には、「ここでこの登場人物が……」「残った者でパルスを再建するんじゃないの?」と思いましたから。
そして完結してから8年後に読み返してみると、あらためてアルスラーン戦記は名作だったと核心しています。
その理由は、こちらも3つにまとまります。

・本当の救いは後の歴史が語る
・目的や役割を果たしきった登場人物
・絶対的な正義とは違う正義感

本当の救いは後の歴史が語る

アルスラーンが命を落とした後、エラムファランギースギーヴらは「最後の戦い」の前に友好国シンドゥラとの交渉で用意していた租借地パルキスタンで過ごすことになります。
その後の物語は、「宝剣ルクナバードの後継者」つまりパルスの新しい王の素質を持った者を探すエラムの目線で描かれています。
シンドゥラへ移り住んで50年、パルス人のパルキスタンの地位は安定しキシュワードの息子アイヤールと孫のロスタムを伴ってペシャワール城周辺地域の平定に向かうことに。
祖父キシュワードに似たたくましい青年に育ったロスタムが宝剣ルクナバードを鞘から引き抜き、パルスの未来を担う後継者が現れたところで物語は終わります。
蛇王ザッハークとの最後の戦いから50年間は、パルス人にとって救いのない時代だったのかもしれません。
ただ、エラムに託され、宝剣を通してアルスラーンに認められた後継者が新しいパルスを復興させる展開を後の歴史は救いと書き残すのではないでしょうか?


目標や役割を果たしきった登場人物

また、主要人物のほとんどが命を落とす展開はファンの方の意見の多い「必要のない死」だったのでしょうか?
読み返した時、私は登場人物が持つ「目標や役割を果たしていたか」に注目してみました。
アルスラーンの忠臣ダリューンは、大きな目標はアルスラーンに向けられた刃を防ぐことです。
物語終盤では、具体的にザッハークとヒルメスを討ち取ることが目標と本人の台詞に書かれています。
最後の戦いでは、親友の仇でアルスラーンの宿敵ヒルメスを一騎打ちで討ち取り、ザッハークに重傷を負わせることと引き換えに命を落としました。
最後の戦いにつながるザーブル城で命を落としたナルサスアルフリードは亡くなる数日前に結ばれ、ナルサスが没頭して描いた絵画は後世に残されることになります。
他にも以前討ち漏らした責任から魔将軍イルテリシュ打倒を語っていたクバード、妹アルフリードナルサスの仇を取ったメルレインシンドゥラへのパルス人移住の条約を成立させたジャスワントのように目標や役割を果たした登場人物がほとんどです。
どうしても死亡シーンが印象に残ってしまいますが、「どう生きたか」「何ができたか」に注目するとそれぞれの役目を全うした最期だったはずです。


絶対的な正義とは違う正義観

シリーズ全体を通してアルスラーン戦記が名作と思う3つ目の理由は、敵対する側の正義も描かれている点です。
絶対悪として存続するザッハーク一党でさえ「欲深い人間の欲を満たしてやる」という思想は、そちら側の正義にも見えます。
アルスラーン政権の成立は旧王族から見ると武力で奪われたクーデター、奴隷制度と貴族身分の制限は貴族側からは利権を取り上げられたことになります。
お互いに譲れないものがあるから戦争は起こる。
主人公側の掲げる正義と同じように、敵にも正義がある。
正義だけが正しくて支持されるわけではないリアルな正義観の対立が作品の魅力でもあります。



どんなクライマックスなら多くのファンの方は良かったのか?


アルスラーン戦記のネガティブな評価と、私が名作と思える理由をまとめてみたところで、どんな結末ならファンの方の感想がはっきりと二分されずに済んだのでしょうか?
作品のクライマックスとは異なる展開を思い浮かべてみました。

主要人物がほとんど生き残る

ファンの間でアルスラーン戦記の悲劇といわれている、登場人物の死が少なければ良かったのでしょうか?
蛇王ザッハークを打倒したアルスラーンの元、側近のエラムは宰相になり、大将軍ダリューンの元でメルレイン、イスファーン、パラフーダらの活躍で領土を全て解放する。
軍を引退したキシュワードは後継ぎを育てる優しいお父さんになり、戦乱の終わりとともに退職したクバードは軍人御用達の居酒屋を始めることに。
戦没者を弔うファランギースの寺院では最期の戦いの起こった日に慰霊祭が行われ、放浪の旅に出たギーヴが1年に1回エクバターナに戻る恒例行事になっていた。
この展開の場合、犠牲をほとんど出さず蛇王ザッハーク、魔将軍イルテリシュ、ミスル軍とヒルメスを退けるためにはナルサスの戦略が欠かせませんしシンドゥラの加勢も必要になるでしょう。
主人公側に偏りすぎた展開になり、ご都合主義といわれてかえってファンの心が離れそうになってしまうのではないでしょうか?


ライバルのヒルメスと和解

また、ファンタジー小説というよりも少年漫画のようにライバルと和解し共通の敵に立ち向かうシーンはどうでしょう?
第一部で王座をかけてアルスラーンと争ったヒルメスですが、幼い頃に殺害されかけた出来事からアンドラゴラスにも深い憎悪を抱いています。
感情が爆発しやすいヒルメスとなら、アンドラゴラスの姿をした蛇王ザッハークと戦うアルスラーンと共闘する展開もあり得ることかなと思います。
少年漫画で育った世代の方に好まれる展開でもあり、感情の起伏が激しくても純愛的なヒルメスは同性異性のファンも多く共感を得やすいのかなと思います。


せめて主人公アルスラーンは生き残る

先ほどの2つは極端ですので、せめて主人公アルスラーンは生き残る展開はどうでしょうか?
生き残ったダリューンエラムファランギースギーヴに支えられ、シンドゥラに避難していたパルス人も帰国し困難ではあってもパルスを再建する。
悲劇と希望のバランスはちょうど良く、受け入れられやすいかもしれません。



アルスラーン戦記は歴史書でもある


作家さんのコメントや解説サイトでは、アルスラーン戦記シリーズは壮大な歴史書と表現されることが少なくはありません。

「リアルな世界観」ではなく「リアルな架空の事実」が描かれた物語

アルスラーン戦記は、中世の中東地域をモデルにした架空歴史小説と作者の田中芳樹さんご自身も解説されています。
作家の上橋菜穂子さんや仁木英之さん、歴史家の大木毅さんもアルスラーン戦記の舞台設定とストーリーの描き方を「歴史書」と文庫解説で表現されています。
読み返してみると、中東地域にアルスラーンヒルメスが実在していたかのような不思議な錯覚を覚えてなりません。
現実世界に近い「リアルな世界観」を表現したファンタジー小説というよりも、田中芳樹さんの設定した「リアルな架空の事実」が描かれた物語がアルスラーン戦記なのでしょう。


ハッピーエンドではないリアルな世界


アルスラーン戦記が「リアルな架空の事実」を残す歴史書なら、読者の多くが納得する結末でも、登場人物に優しいハッピーエンドでもない展開は、そこにリアルな世界があったのだと実感できます。


アルスラーン戦記シリーズの読書感想文のまとめ

ファンだから思うアルスラーン戦記とは?


今回は、本の紹介や掘り下げというよりも素直な読書感想文を書かせていただきました。
アルスラーン戦記が出版されてから完結するまで31年。
子どもの頃に初版を読み始めた方は登場人物の誰よりも年上になり、私のように中盤から作品に触れた方も世の中を支える世代になりました。
現実は思う通りにいかず、自分と考え方や立ち位置の違う人とは対立しなければならないことも知っています。
あらためてアルスラーン戦記シリーズを読み返してみると、そこにひとつの世界があって物語の中に生きた登場人物がいた。
別の世界で暮らす私も、登場人物ほど注目される活躍とはほど遠いですが、自分の役割や生き方に自問自答しながら暮らしています。
別の世界がどこかにあるかもしれない。
アルスラーン戦記は、ふとした時に空想と現実を行き来できる名作ファンタジー小説だと思い続けたい作品です。


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